パナソニック技報
【5月号】MAY 2019 Vol.65 No.1

(2019年5月15日公開)

特集1:B2Bソリューション

当社では,お客様の現場における複雑化した課題の解決と生産性向上との両立を目指し,Cyber(仮想)空間とPhysical(現実)空間を高度に融合させたCyber Physical System(CPS)の構築に取り組んでいます.近年の目覚ましい技術の進化はCPSを急速に高度化させ,お客様の現場を変革し新たな価値を生み出していきます.本特集では,CPS化に向けた具体的な取り組みについて紹介します.

特集1:B2Bソリューション

B2Bソリューション特集によせて

パナソニック(株) コネクティッドソリューションズ社 常務 技術担当 行武 剛

顔写真:執筆者 行武 剛

招待論文

サイバーフィジカルシステムにおけるモビリティ最適化エンジンの開発

九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所 教授 藤澤 克樹

近年,最新技術の組合せや融合によって,安心,安全,便利ないわゆる超スマート社会(Society 5.0など)を実現するためさまざまな取り組みが世界中で推進されている.本論文ではサイバーフィジカルシステムを対象とした最新の研究に関して解説を行う.

顔写真:招待論文執筆者 藤澤 克樹

技術論文

B2B向け現場サイバーフィジカルシステム化技術

秦 秀彦,伊藤 智祥,安達 孝夫,金子 有旗

物流・流通・製造などのヒト・モノが動き回る現場をカイゼンする現場CPS(Cyber Physical System)化技術について解説する.従来,現場のカイゼンはカイゼンのプロが培ったノウハウをベースに行われてきた.しかし,広大で複雑に人やモノが動く現場を24時間365日,人が分析し,カイゼンし続けることは困難である.現場CPS化技術は,現場(フィジカル空間)をデジタル化し,サイバー空間での分析・知識化で,現場の課題を洗い出し,現場をカイゼンするための技術である.現場CPS化技術は,現場をカイゼンすることで顧客の経営を良化し,顧客に貢献することを狙いとする.現場CPS化技術の適用事例をもとに,現場CPS化技術を支える技術,および,その有効性を示す.

キーワード / CPS,カイゼン,デジタル化,自動分析,最適化シミュレーション

代表図

ディープラーニングを活用した駐車場満空監視システムの開発

桑原 麻理恵,藤井 雅和,三宅 優実,崎戸 梨恵,砂子 雅人,神尾 崇

本開発では,360度の広い画角で撮影できる全方位ネットワークカメラの魚眼画像からディープラーニングを用いて車両を検知し,車両追尾および駐車状態の判定を行う,駐車場満空監視システムを実現した.従来のシステムでは,駐車スペースの道路面にセンサを埋め込む方式やステレオカメラを用いた方式を採用しているが,多大な設置・調整工数や,駐車判定精度の低さが課題となっている.本システムは,道路面への設置工事やレンズ・画角の調整が不要となることで設置の容易化を実現すると同時に,1台のカメラによる駐車場の防犯と満空状況の自動認識を両立した.米国デンバー市のスマートシティでのフィールド試験の結果,設置・調整工数を従来比2分の1の半日に削減,かつ従来比10 %以上の駐車判定精度を確保し,本システムが現場での運用に耐え得ることを確認した.

当社関連リリース

キーワード / 駐車場満空監視,Smart Parking,ネットワークカメラ,車両検知,ディープラーニング,クラウド

代表図

Contact Area Effects on Superficial and Deep Pain Threshold for Service Robot Safety Design using a Pain-sensing System – Development of a Human-inspired Pain-sensing System –
(人共存ロボットの安全設計に向けたPain-sensingシステムの開発 -人体衝突時の接触面積と表在痛/深部痛しきい値の関係-)

Tanyaporn Pungrasmi,Yusaku Shimaoka,Tamao Okamoto,Ryoji Watanabe

Logistic and service robots are now increasingly collaborating with humans in a public environment; hence, there is a necessity for a safety evaluation. Therefore, this study focuses on pressure pain thresholds that humans feel when in contact with the robots. The pain threshold was measured in the forearms of fifteen subjects using four different probe areas: 0.5, 2.0, 3.6, and 5.8 cm2. The same experiment was conducted using the proposed pain-sensing system. The obtained results were compared with those obtained from the subjects to validate the proposed system. This system imitates the sensing location of pain receptors in the human skin (superficial somatic pain) and skeletal muscle (deep somatic pain) by placing a pressure sensor in each layer. At the pain threshold point, maximum pressure in superficial sensors for a contact area probe of 0.5 cm2 was at the highest; no considerable differences were observed in the remaining probes when compared with the 0.5 cm2 probe. Meanwhile, the maximum pressure in deep sensor for every probe were considerably equal. By using this system, it is possible to measure pressure distribution in two layers to predict the pain in humans while being in contact by different area objects in contact area. The results of the relationship between contact area and pain can be used to design the safety protocol in logistic or service robot safety design industries.

当社関連リリース

キーワード / Collaborative Robot, Robot safety, Human safety, Sensing, Safety design, Pain, Dummy, Biofidelity
協働ロボット,ロボット安全,人間安全,センシング,安全設計,痛覚,ダミー,生体忠実性

代表図

物流現場向け自動搬送システムの開発

大山 貴司,福嶋 正造,今仲 隆晃,森田 英夫

荷物の集荷・仕分け・配送を行う物流施設の現場では,トラックから物流拠点への搬入作業,荷物を行き先のトラックに仕分ける作業,物流拠点からトラックへの搬出作業場において,カゴ車と呼ぶ運搬用台車が使用され,これを人力で移動させることが多い.また,重いカゴ車を急いで搬送する際に手足を挟み込むなどの労働災害が頻発している.カゴ車での運搬は物流施設の現場だけでなく製造業の現場でも行われており,人手不足,労働災害は,共通の課題である.今回,筆者らは既存のカゴ車の搬送を自動化するシステムを開発した.本稿では,この自動搬送システムの中核となる既存のカゴ台車の底スペースに進入可能で自律移動が可能な低床型の搬送ロボットや最大100台の搬送ロボットを運行管理する群制御システムソフトについて述べる.

当社関連リリース

キーワード / 群制御,自律走行技術,低床型,省人化,最大100台同時制御,無軌道,物流現場

代表図

解説記事

60 GHz無線技術の商品化と今後の展望

笠原 哲志,前田 卓治

次世代セルラーである5G(5th Generation)でミリ波技術が導入されるのに伴い,ミリ波を使ったシステムに注目が集まっている.次世代無線LANとして60 GHz帯の規格化,実用化が既に始まっており,これに対応し,国内では60 GHz帯の出力規制の緩和が行われ,10 m程度の通信範囲に留(とど)まっていた通信デバイスが数百m~1kmまで拡大できるようになっている.現時点においては,一般用途としての需要は低いものの,産業用途では専用線の敷設や高速無線通信の要望が根強くあり,ミリ波通信システムの導入が徐々に広がりつつある.本稿では,60 GHz無線技術を用いた通信システムの開発を紹介するとともに,今後の展望について解説する.

当社関連リリース

キーワード / ミリ波無線,60 GHz,メモリー,監視カメラ,鉄道

代表図

技術解説

大規模電磁界解析を用いたEMC解析技術の開発

松原 亮 ,井口 勝夫

近年,高性能・小型化が進展しているデジタル機器の開発では,LSIの高速化,低電圧化に伴い,EMC(Electromagnetic Compatibility)対策の難易度が高くなっている.この問題を効果的に解決するため,EMC解析技術開発を行っている.本稿では,輻射(ふくしゃ)ノイズと静電気に関して,従来手法より直接的かつ効果的に貢献できる解析手法を開発し,検討時間を削減した.

当社関連リリース

キーワード / EMC,EMI,ESD,輻射,静電気,電磁界シミュレーション

代表図

関連するコンテンツ

【11月号】NOVEMBER 2015 Vol.61 No.2

特集2:環境

近年の経済成長・技術開発により,私たちのくらしは便利で快適なものになりました.一方で,環境・エネルギーなどの社会課題への関心が世界的に高まっています.当社は,環境経営の長期ビジョン「パナソニック環境ビジョン2050」を2017年6月に策定し,環境経営の目指す姿を定め活動を推進しています.本特集では,環境ビジョンの取り組みや,それを実現する環境関連技術の開発事例を交えながら紹介します.

特集2:環境

環境特集によせて

パナソニック(株) 品質・環境本部 本部長 尾本 勝彦

顔写真:執筆者 尾本 勝彦

招待論文

「環境」ビジネスを超えたSDGs時代の成長

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 教授 蟹江 憲史

環境,社会,経済の課題をカバーするSDGsが企業に浸透し始めた.今後,「本当のSDGs」実現へ向け,多様で柔軟な発想による「環境ビジネス」を超えた「総合的ビジネス」としてのアクションの必要性について紹介する.

顔写真:招待論文執筆者 蟹江 憲史

総論

パナソニック環境ビジョン2050の実現に向けて

佐々木 秀樹

当社が目指す姿を示す「パナソニック環境ビジョン2050」を2017年に策定・発信した.そのなかでは,「より良いくらし」と「持続可能な地球環境」の両立に向けて,クリーンなエネルギーでより良く快適にくらせる社会を目指し,使うエネルギーを削減すると同時に,それを超えるクリーンなエネルギーの創出・活用を進めることを示している.実現に向けた活動の方向と,具体的な取り組みの事例を紹介する.

当社関連リリース

キーワード / 環境ビジョン,エネルギー,水素,CO2ゼロ工場

代表図

技術論文

水素社会実現に向けた水素・燃料電池関連技術開発

安本 栄一,武田 憲有,田村 佳央,尾関 正高

エネルギーの安定供給と温暖化対策の候補として水素の利用拡大が期待されているなか,都市ガスを水素に変換し,水素を用いて発電を行う家庭用燃料電池発電システムの技術開発を行っている.この家庭用燃料電池発電システムを低コスト化し,さらなる普及拡大を図るため,基幹デバイスである燃料処理器と燃料電池スタックの要素技術開発を行った.要素技術開発により,燃料処理器に用いる触媒の50 %削減と,燃料電池スタックの触媒劣化解析による触媒劣化の大きい部位の明確化を行った.

当社関連リリース

キーワード / 燃料電池,燃料処理器,改質,燃焼,火炎,MEA,触媒層,電解質

代表図

紫外レーザ改質による大面積ペロブスカイト太陽電池モジュールの高効率化

樋口 洋,根上 卓之

高効率・低コストが期待されるペロブスカイト太陽電池の実用化に不可欠なモジュール実現を目的として,その課題抽出のため,既存の太陽電池モジュールの工法を応用した試作を行った.その結果,セル間接続部に残るTiO2層が抵抗となることが判明し,この抵抗を抑えるには紫外線レーザ照射が有効であることがわかった.この結果に基づいてモジュール設計を行い,203×203 mm2サイズで,世界トップレベルの効率12.6 %を達成した.また,接触抵抗の精密分析を行った結果,発電面積率の増加によるモジュール効率向上の見通しを得た.

当社関連リリース

キーワード / ペロブスカイト太陽電池,有機無機ハイブリッド,パターニング,紫外線レーザ,太陽電池モジュール

代表図

消費エネルギー最小化を実現する工場向けスマートエネルギーマネジメントシステム

中村 泰啓,鈴木 秀生,山下 英毅,神岡 幸治,林田 岳

省エネルギー対策が重点的に進められてきた産業分野においても,さらなる省エネルギー技術の開発が求められている.そこで,生産状況や生産環境の変化に合わせて生産工程と原動設備をリアルタイムに自動で連携制御し,エネルギーの使用量を最小化する,新しいリアルタイム自動連携制御システムSmart EMS(Smart Energy Management System)を開発した.このシステムを,省エネルギーモデル工場に導入し実証した結果,生産時に最大44 %のエネルギー使用量を削減できた.

当社関連リリース

キーワード / 省エネ,エネルギーマネージメントシステム,連携制御,リアルタイム自動制御,予測制御

代表図

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【11月号】NOVEMBER 2016 Vol.62 No.2