スパッタレスを実現する高品質レーザ溶接システム スパッタレスを実現する高品質レーザ溶接システム

レーザ溶接におけるスパッタ
発生原因(原理)とその対策

高品質なレーザ溶接を行うために、スパッタ対策は必須となります。ここでは、レーザ溶接においてスパッタが発生する原因と、その対策について解説します。
また最後に、私たちがが提案する「Blue-IRハイブリッド用ガルバノスキャナー」、「DOEを中心としたビームプロファイル制御」などご紹介させて頂きます。

1.レーザ溶接におけるスパッタとは

1-1.スパッタとは

レーザ溶接における「スパッタ」は、溶接プロセス中に発生する現象の1つです。スパッタとは、溶融した金属(溶融プール)から小さな粒子として勢いよく飛び散る現象を指します。これらの粒子の大きさは、数μm~数百μm程度と言われています。

※スパッタに似た現象として、「ヒューム」、「プルーム」などもあります。こちらは、レーザ溶接中に発生する金属蒸気とガスの混合物で、煙やススとして、悪影響を及ぼします。これらの粒子の大きさは、数μm以下と言われています。

レーザ溶接におけるスパッタ

1-2.スパッタの影響による課題

レーザ溶接におけるスパッタは、大きく2つの課題を引き起こします。

  • 製品へ及ぼす問題点
    ・溶接品質の低下(外観不良、溶接強度低下)
    ・スパッタ禁止エリアへの付着(不良品増加、後処理増加)
  • 装置・工程へ及ぼす問題点
    ・光学部品への付着(保護ガラス交換頻度増加)
    ・清掃の頻度増加(メンテ時間増加)
スパッタ発生によって汚れた保護ガラス

2.レーザ溶接におけるスパッタ発生の原因(原理)

レーザ溶接におけるスパッタ発生の原因(原理)を説明する前に、まずは、前提知識として、レーザ溶接プロセス(キーホール溶接と熱伝導溶接)について解説します。

2-1.レーザ溶接プロセスの分類

レーザ溶接プロセスは、キーホール溶接と熱伝導溶接に分類することが出来ます。

熱伝導溶接のデメリットは、溶け込み深さが0.2mm以下と薄いことであり、適用できる製品が限定されるのが実情です。そのため、近年のレーザ溶接においては、多くのものがキーホール溶接であり、キーホール溶接におけるスパッタ対策が重要になります。

キーホール溶接と熱伝導溶接の相違点チャート

キーホール溶接において、キーホールの挙動の観察は重要になります。ただし、キーホールは観察することが難しいため、シミュレーション動画を是非ご参考にして下さい。
レーザ照射により、キーホールが形成される様子や、形成されたキーホール(小さな穴)が、すぐに塞がる様子が分かります。

次に、スパッタ発生メカニズムを解説します。
レーザ溶接の加工点をミクロに見ると、加工点では、溶融した金属(溶融池・溶融プールとも呼ばれる)とキーホールの相互作用でとらえることが出来ます。高エネルギーのレーザが照射され、形成されたキーホール近傍は高温であると同時に、プラズマ蒸気が吹き上がり、溶融した金属が暴れます。その暴れにより、金属が勢いよく飛び出ることで、スパッタが発生します。
つまり、スパッタ対策は、「溶融した金属とキーホールの相互作用をいかにコントロールするか?」、「溶融した金属とキーホールをいかに安定させるか?」が、重要なポイントになります。

スパッタ発生メカニズムのイラスト・画像

3.レーザ溶接におけるスパッタ対策

スパッタ対策は、レーザ発振器・光学部品などの要素技術の発展により、進化しています。ここでは、スパッタ対策を第1~第4世代に分けて、解説します。

3-1.第1世代(レーザパラメータ制御 ※出力、集光径、速度)

レーザパラメータ制御は、昔から行われている古典的な手法ですが、スパッタ対策の基本になります。

  • レーザ出力:対象材料・形状に最適なレーザ出力の設定、レーザ出力のスロープ制御など多岐にわたります。
  • 集光径:最適な集光径の設定、焦点位置をずらすデフォーカスなどの制御因子が挙げられます。
  • 溶接速度:溶融金属とキーホールの相互作用をコントロールするため、溶接速度も重要な因子です。

3-2.第2世代(ビーム走査 ※ウォブリング動作)

ビーム走査は、集光したレーザ光を高速でウォブリング動作させるスパッタ対策です。ウォブリング動作は、ガルバノミラーで動作させることが多く、その動作は円動作が一般的です。(少し変わったものとして、サイン波動作や八の字動作などもあります。)
そのスパッタ低減のメカニズムは、材料(特にアルミや銅)にもよりますが、溶接速度を高速にした方が溶融金属とキーホールが安定化し、スパッタ対策として有効になるからです。(一見、溶接速度が遅い方が、スパッタ対策として有効に思われますが、溶接速度が遅いと溶融金属にレーザ光が当り続けるため、溶融金属の突沸やキーホールの暴れが大きくなり、スパッタが発生し易くなるためです。)

ビーム走査におけるウォブリング動作

3-3.第3世代(ビームプロファイル制御)

ビームプロファイル制御は、照射するレーザ光のビームプロファイル形状を変更し、スパッタ対策を行う手法です。昔からの発振器や光学系では、一般的にはレーザのビームプロファイルは、ガウシアン形状やトップハット形状になっていますが、そのままでは、スパッタ対策にならないため、近年、積極的にビームプロファイル形状を変更する手法が一般化しつつあります。
特に、リングモードプロファイルは、レーザ溶接のスパッタ対策のトレンドの1つになっています。このプロファイルは、ガウシアン形状のセンター(コア)ビームの周りに、リング状のトップハット形状を配置したビームプロファイルになります。
リングモードプロファイルによるスパッタ低減のメカニズムは、下記になります。

  1. キーホールの入口径が拡大し、プラズマ蒸気の吹き上がりが抑制できる
  2. 溶融池(溶融プール)が大きくなり、溶融金属の暴れが抑制できる
  3. クリーニング効果・余熱効果・徐冷効果が見込め、溶融金属・キーホールの挙動が安定化する
ビームプロファイル制御の解説イラスト

3-4.第4世代(短波長レーザの活用 ※Blue・Green)

近年、車載の電動化が急速に進んでいる背景から、銅のレーザ溶接需要が拡大していますが、この銅のスパッタ対策として、有効な手法が短波長レーザの活用になります。
これは銅に対する光吸収率が、従来からの近赤外光の波長:1070nmでは数%以下であるのに対し、短波長レーザの波長:420~515nmでは40~50%と向上するため、スパッタ低減が望めるためです。
スパッタ低減のメカニズムは、光吸収率が低いときは、溶融金属の突沸など不安定な挙動が起こりやすいですが、光吸収率が高いときは、金属が安定して溶融するため、スパッタの発生が起こり難くなるためです。
ただし、注意点としては、短波長レーザそのままで使用する場合は、溶接プロセスは、熱伝導溶接になるため、溶け込み深さが0.2㎜以下と限定される点です。この問題を解決するため、「短波長レーザ」と「ビームプロファイル制御(第3世代)」を組み合わせたものが、近年多く提案されており、レーザ溶接業界で注目されています。

※事例:BlueレーザとIRレーザのハイブリットレーザ化、短波長レーザのリングモード化など…

波長吸収特性チャート

4.スパッタ対策の私たちの提案

スパッタ対策について説明してきましたが、最後に、私たちからの提案をさせてい頂きます。
私たちは、第3世代:ビームプロファイル制御、第4世代:短波長レーザの活用を中心にスパッタ対策を行っており、下記に3つの事例を紹介させて頂きます。

DOE(回折光学素子)を活用したビームプロファイル制御で実際にスパッタ量が低減されることを実現した動画をご視聴ください。

4-2.Blue用ガルバノスキャナー(LW+Blue)の提案

スパッタ対策の第4世代:短波長レーザの活用の一例です。このBlue用ガルバノスキャナーは、オプションでDOE装着も出来ます。(ビームプロファイル制御機能を追加することが可能です。)

Blue用ガルバノスキャナー

4-3.Blue-IRハイブリッド用ガルバノスキャナー(LW+Hybrid)の提案

スパッタ対策の第4世代:短波長レーザの活用の一例ですが、Blue-IRハイブリッド用ガルバノスキャナーの事例です。
BlueレーザとIRレーザが同じ光学系を通ると色収差の問題が生じるため、集光点でBlue光とIR光はずれますが、私たちのスキャナーは、色収差補正機能を有しており、集光点での位置ずれの心配はございません。

Blue-IRハイブリッド用ガルバノスキャナー

色収差補正機能を有したBlue-IRハイブリッド用ガルバノスキャナーによる高品質な溶接を実現した動画をご視聴ください。