パナソニック技報

【5月号】MAY 2017 Vol.63 No.1

(2017年5月15日公開)

特集:先端研究

安全・安心,快適・便利,心が豊かでサステナブルな社会の実現に,人工知能や感性センシング,水素エネルギーなどを現実のものとした新しい商品やサービスが生まれることが期待されています.先端研究本部では,人工知能,センシング,蓄電池・太陽電池,水素を重点研究領域として定め,当社の技術10年ビジョンの重点領域(IoT/ロボティクス,エネルギー)における新しい商品・サービスに向けて,非連続の技術創出を目指した研究開発を行なっています.本特集では,これらの先端研究に関する最新の取り組みについて紹介します.

先端研究特集によせて

パナソニック(株) 先端研究本部
本部長 辰巳 国昭

招待論文

産学共創:産学連携の新たなステージ

大阪大学
総長 西尾 章治郎

地元大阪の強い熱意によって創立した大阪大学は,産業界・市民とのつながりを大切にし,とりわけ産学連携活動を重視してきた.社会課題が複雑化し,産業構造も大きな変化を遂げるなか,大阪大学では,「産学連携」から「産学共創」へとパラダイムシフトさせ,新たなステージに歩を進める.

技術論文・総論

<人工知能>

[論文]自動運転向けディープラーニング障害物検出

築澤 宗太郎,グレゴリー セネー,ミンヤン キム,ルカ リガッツィオ

ADAS,自動運転車向け障害物検出のための高精度・低演算量複数物体検出技術を開発した.
本技術では時系列情報を用いることで,高い認識精度を維持しながら演算量の削減に成功した.

代表図

[論文]機械学習による車載ネットワーク攻撃検知システム

芳賀 智之,岸川 剛,鶴見 淳一,松島 秀樹,高橋 良太,佐々木 崇光

安心・安全なコネクテッドカー社会の実現に向け,ルールベースによる既知攻撃検知と,機械学習を利用した異常検知技術による新種攻撃検知を多層に配置する車載向けサイバー攻撃検知システムを提案する.

代表図

[論文]機械翻訳向け自動コーパス生成

山内 真樹,藤原 菜々美,今出 昌宏

機械翻訳は,学習用の対訳コーパス(データ)数が性能に直結する一方,コーパス収集自体が高コストである.筆者らは,少量の対訳コーパスから学習用データを自動生成する技術を開発し,生成コスト削減と翻訳性能向上を両立した.

代表図

[論文]全層転移学習によるプロテオミクス解析

澤田 好秀,佐藤 佳州,中田 透,氏本 慧,林 宣宏

プロテオミクス解析などの多くの実課題では,検体の収集が困難であり,高精度な判定が難しいという課題がある.この問題を転移学習と深層学習を組み合わせることで解決を試み,有効性を実験によって確認した.

代表図

<センシング>

[論文]有機積層型イメージセンサ
- 完全同時広ダイナミックレンジ技術,光電変換グローバルシャッタ技術の開発 -

村上 雅史,西村 佳壽子,宍戸 三四郎,高瀬 雅之,三宅 康夫,玉置 徳彦

有機イメージセンサの光電変換部と回路部が積層され独立に設計可能な構造の特長を活(い)かし,画素電極を1画素内で大小に分割した1画素2セル構造により,時間ずれのない1回の撮像で120 dB超の広ダイナミックレンジ技術を開発.

代表図

[論文]ミリ波レーダを用いた非接触心拍センシング技術

酒井 啓之,福田 健志,井上 謙一,奥村 成皓,阪本 卓也,佐藤 亨

離れたところから非接触で高精度に心拍数および心拍間隔を計測できる生体情報センシング技術を開発した.高感度なスペクトラム拡散ミリ波レーダ技術と,特徴点ベースの心拍推定アルゴリズムによって,心電計相当の精度での心拍間隔測定を可能にした.

代表図

[論文]超高分解能と低消費電力を両立するノイズシェーピング逐次比較型AD変換器の開発

小畑 幸嗣,松川 和生,塚本 裕介,須志原 公治

ノイズシェーピング逐次比較型アナログデジタル変換器(ADC)は,超高分解能と低消費電力を両立する新たなADCである.28 nm CMOSプロセスで提案ADCを試作した結果,2 kHz帯域で97.99 dBのSNDR(Signal to Noise and Distortion Ratio)を,37.1 μWの低消費電力で実現した.

代表図

<蓄電池・太陽電池>

[総論]革新蓄電池の研究開発動向

嶋田 幹也

革新蓄電池は,理論エネルギー密度が高く,その動作原理や材料がリチウムイオン電池と異なる電池である.
革新蓄電池の課題と要素技術を紹介する.

代表図

[論文]ナトリウムイオン電池のポストリチウムイオン電池としての可能性

蚊野 聡,岡野 哲之,北條 伸彦,名倉 健祐

ナトリウムイオン電池は,低コストな次世代電池として期待されている.
筆者らは,炭素閉孔容積の増大による高容量化という材料設計指針を基に,業界最高容量のナトリウムイオン電池用炭素負極を開発した.

代表図

[論文]高度解析技術による電池材料の解析

井垣 恵美子,大川 真弓,杉本 裕太,大内 暁

近年の材料解析技術の進展により,微小領域における軽元素を含む原子配列や,表面・界面の状態変化を直接捉えることが実現しつつある.これらの技術を二次電池材料に適用し,材料の構造解析や表面・界面の諸現象の解明を行った.

代表図

[論文]ペロブスカイト太陽電池の耐久性向上

藤村 慎也,松下 明生,山本 輝明,松井 太佑,内田 隆介,根上 卓之

高い効率を有し,塗布プロセスが可能で,革新的低コスト化が期待できるペロブスカイト太陽電池の耐久性向上の実証研究を行った.正孔輸送層由来のドーパント拡散の抑制と,ペロブスカイト層の相変化抑制によって,85 ℃高温環境,1000時間曝露(ばくろ)において変換効率低下なしを実証した.

代表図

<水素>

[論文]燃料電池マルチスケールシミュレーション

山本 恵一,藤田 悠介,安本 栄一,菅原 靖

燃料電池触媒層のナノスケール構造に基づく,商品電極サイズの燃料電池の発電性能を予測できるマルチスケールシミュレーション技術を開発した.発電電圧の予測値として,実験値との乖離(かいり)±10 mV未満の精度を実現した.

代表図

[論文]プロトン伝導型SOFCの開発

黒羽 智宏,見神 祐一,鎌田 智也,山内 孝祐,谷口 昇,辻 庸一郎

CO2に対する化学安定性を有したプロトン伝導体の開発により,大出力密度0.14 W/cm2のプロトン伝導型SOFCセルを開発した.

代表図

[論文]ペロブスカイト型プロトン伝導性酸化物Ba1-xZr1-yYyO3-δにおける特異な水素イオン伝導

銭谷 勇磁,サイフェラー バダル,加納 学,南 炫貞,中田 裕貴

プロトン伝導性酸化物Ba1-xZr1-yYyO3-δ(x=0.0, y≦0.2)は高いプロトン伝導性を示す酸化物として知られている.触媒電極を用いて,乾燥した水素下の熱処理により,600 ℃で0.34 S/cm,100 ℃で0.14 S/cmと,従来よりも高い水素イオン伝導性を確認した.従来とは異なるイオン伝導モデルを提案している.

代表図

[論文]水電解アノード触媒開発における第一原理計算の活用

日野上 麗子,豊田 健治,宮田 伸弘

水素を利用した新しいエネルギー利用形態の一端を担う水電解水素製造技術が注目されている.安価で高活性な水電解アノード触媒材料探索のために,第一原理計算を活用した事例を紹介する.

代表図

<材料・環境>

[論文]大変位・高出力な繊維状ポリマーアクチュエータ

平岡 牧,金子 由利子,中村 邦彦,林 直毅,田頭 健司,荒瀬 秀和

直鎖状低密度ポリエチレンを繊維状に加工して,ゴムのような伸縮性のある熱歪式のアクチュエータを作製した.動作温度を従来より低温化し,汎用の樹脂部材と組み合わせやすい100 ℃以下で動作可能である.

代表図

[論文]紫外光面発光光源の開発と水処理技術

佐々木 良樹,頭川 武央,黒澤 貴子,長尾 宣明,神子 直之

水銀を含まない真空紫外光光源を開発し,水中の有機物に対して高い分解性能を持つことを実証した.また,同構造に深紫外蛍光体を付加した深紫外光光源も開発し,低圧水銀ランプと同等の殺菌性能を実証した.

代表図