会議の前日、会場のチェックをしている幸之助が立ち止まった。

「これでは、出席していただく方全員のお顔が見えへんやないか」
「人数も多いことですし…」
「しかし今回は、ぜひ、皆(みな)さん一人ひとりとお話する気持ちで臨(のぞ)みたいんや」

椅子と机  会場にぎっしりならべられた椅子は、前列の人と人の間から後ろの人の顔が見えるようにならべ直されることになった。さらに、壇上(だんじょう)からチェックしていた幸之助は、もっとよく見えるようにと、壇を高くするようにと指示(しじ)を飛ばした。

案内状(あんないじょう)を出す前から、「今回の会合は日にちを切らない」「議題はあえて用意しない」と幸之助は事務局(じむきょく)に告げていた。そして自分自身(じぶんじしん)は当日一人ひとりにお渡(わた)ししたいと、合計200枚(まい)もの「共存共栄(きょうぞんきょうえい)」の色紙を毎日少しずつ気持ちを込(こ)めて、書き溜(た)めていたのである。「策(さく)はないが、とにかく徹底的(てっていてき)に話し合う」----。幸之助には並々(なみなみ)ならぬ決意があった。