環境分野 2017年募集事業 選考委員長総評

環境分野 選考委員長
木村 真樹

Panasonic NPOサポートファンド(環境分野)の2017年募集事業の選考委員長を務めました木村真樹です。昨年に引き続き、今年も選考のプロセスと、応募用紙を拝見して感じたことをお伝えします。

2017年募集事業の選考プロセス

2017年は4月下旬~6月上旬に組織基盤強化ワークショップ&公募説明会を、京都・熊本・高知・山形・横浜・長野で開催しました。その後、7月14日に応募受付を開始し、31日の〆切までに新規助成に17団体(うち2団体は応募要件を満たさず、うち3団体は事業助成の内容だったため、選考対象から除外)、継続助成2年目に8団体(うち4団体は2015年に助成し、2016年の継続応募で不採択だった団体の再チャレンジ)、継続助成3年目に2団体(うち1団体は2014年と2016年に助成した(2015年の継続応募では不採択だった)団体)の計27団体の応募がありました。

9月上旬に開催した選考委員会の協議の結果、事務局によるヒアリング対象として5団体、電話やメールでの確認対象として7団体(すべて継続助成)に絞りました。
その後、10月上旬までに12団体へのヒアリングと確認を終了し、報告書を選考委員に送付。各選考委員からの最終評価を踏まえ、10月下旬に選考委員長による決裁会議で助成内定先として8団体を選定しました。

本ファンドのユニークな(助成先にとっては大変な)取り組みのひとつは、助成内定先に内定条件を付すことです。ほとんどの内定先が選考委員会からのフィードバックを受け、事業計画書をブラッシュアップし、2018年から始める事業に備えていただきました。

応募用紙を拝見して感じたこと

"ラブレター"を届ける相手に興味を持つ

応募用紙を書く上でのポイントは、昨年の総評でかなりしっかりフィードバックさせていただきました。
でも、今年の応募用紙を拝見し、これらのフィードバックをご確認いただいていないと感じる団体がいくつも見られました。本ファンドの選考委員会を通過するためには、まず応募用紙でプレゼンテーションするしかありません。ぼくは「プレゼンテーションはプレゼント」だと考えています。プレゼントの贈り先である選考委員会は、どんなプレゼントを望んでいるでしょうか。応募要項では、本ファンドの趣旨のほか、選考委員の好き嫌いではなく「こんなまなざしで判断しますよ」という選考基準も示しています。自団体のやりたいことをただ伝えるだけでは、単なる押し売りです。応募用紙という“ラブレター”を届ける相手に興味を持つことが、その思いが伝わる可能性を高めるのだと思います。

求められているのは「第三者を説得する力」

ただし、その“ラブレター”を受け取る選考委員は、あらゆる環境の問題や地域のことにくわしいわけではありません。誤解を恐れずに言うなら、"素人"だと思った方がよいと思います。そのため、「専門用語を使った方が専門性が高い」と思われるわけではありません。また「自分たちが解決に挑んでいる問題やこれまでの取り組みを選考委員は知らないから」でもありません。選考で求められているのは「第三者を説得する力」です。その力量から選考委員は「応募いただいた助成事業を実現する力」を見たいと思っています。応募団体を応援したいと考えている選考委員も説得できなければ、多くの人たちを巻き込んで、助成事業に挑むことはできないと思うのです。

「組織診断」なくして「基盤強化」なし

ぼくはよく仕事柄、NPOやソーシャルビジネスの事業計画づくりをサポートしていますが、その事業は「社会を変えるための手段」なのだから、NPO・ソーシャルビジネスの事業計画は「社会を変える」計画と考え、以下の10の問いに取り組んでもらうことがあります。

  1. 誰が困っていますか?
  2. 何に困っていますか?
  3. なぜ困っていますか?
  4. 解決に取り組む先行事例には何がありますか?
  5. いつまでにどこまで解決したいですか?
  6. 誰と取り組む必要がありますか?
  7. どんな事業に取り組みますか?
  8. 事業終了までに何をどこまで変えていますか?
  9. その事業に取り組むにはいくらかかりますか?
  10. そのお金をどう調達しますか?

これらの問いに対する答えは、(1)から(10)まで一気通貫、つながり合っていることが大切だと考えていますが、本ファンドの選考委員を務めるようになり、「社会を変える」計画だけでなく、「組織を変える」計画づくりでも考えることは同じだと思うようになりました。

特に最初の(1)から(3)は、「社会を変える」計画づくりなら「マーケティング」、「組織を変える」計画づくりなら「組織診断」に該当しますが、社会の課題も組織の課題も、本当に、本当に、解決する事業を育みたいなら、そのための準備が欠かせません。応募用紙を拝見していると、組織診断なく基盤強化に取り組む事業や、これまでに取り組んだ「組織診断の結果」とこれから取り組む「基盤強化の計画」がつながっていない団体を毎年必ず見かけます。「組織診断」なくして「基盤強化」なし。思いつきやなんとなくでは、社会も組織も変わらないと思います。

<選考委員>

★選考委員長

木村 真樹

公益財団法人 あいちコミュニティ財団 代表理事(※選考当時)
コミュニティ・ユース・バンクmomo 代表理事 ★

粉川 一郎

武蔵大学 社会学部 メディア社会学科 教授

山崎 宏

特定非営利活動法人 ホールアース研究所 代表理事

本池 祥子

パナソニック 品質・環境本部 環境経営推進部 環境渉外室 環境渉外ユニット 主務