子ども分野 2017年募集事業 選考委員長総評

子ども選考委員長
森本 真也子

応募状況と選考プロセス

2017年度の子ども分野は応募総数が39件ありました。その内、新規助成は31件、継続助成2年目が6件、同3年目が2件でした。新規助成の受付が最後の年ということもあり、昨年より20件減少しましたが、新しい分野のNPOからの申請もあり、子どもに関わる社会状況の動きを垣間見ることができました。

先ず、助成事務局による予備選考では、団体要件と事業要件のチェックが行われ、新規助成は22件が審査を通過しました。継続助成は1年目に既に要件をクリアしているため、予備選考は実施しませんでした。この結果、新規助成の22件、継続助成2年目の6件、同3年目の2件、計30件が本選考に進みました。
続いて、選考委員5名による本選考が行われました。予備選考を通過した30件について、すべての応募書類を各選考委員が目を通し、書類審査を行った上で、10月6日(金)に選考委員会を開催して、各委員が推薦した案件や評価をもとに5時間かけて審議を行いました。

選考委員が昨年と同じメンバーだったため、お互いの考え方や視点の違いを明確にしながら、どこで一致できるかを納得し合えるところまで議論することができたと思います。それぞれの子どもに関する社会課題の捉え方の違いを明確にすることが、議論を深める時に重要であることも発見しました。委員の意見がなかなか一致しない案件もありましたので、新規助成では助成候補5件に補欠2件も加えた形で選出しました。その後事務局による団体ヒアリングを経て、選考委員長の決裁で5件を採択し、計750万円の助成を決定しました。また、継続助成は選考委員会で採択した5件について、選考委員長の決裁で計750万円の助成を決定しました。採択された案件の推薦理由は別途掲載していますのでご一読いただければ幸いです。
以下、選考を通して感じたことを述べさせていただきたいと思います。

継続助成の選考ポイント
-組織診断の結果を組織基盤強化にどう活かしているか

今年度の継続助成の選考過程で、共通して見えてきた選考のポイントがありました。
一つは、組織診断の結果を団体がどう受け止めて、次の組織基盤強化にどのようにつなげているかがポイントになりました。組織診断の結果が出てから、継続助成の申請までの期間が短かったために、組織基盤強化計画を検討する時間が十分確保できなかったこともあるかと思います。組織診断で明快に課題だとされていることが次の計画に反映されなかった場合は、大変残念に感じました。診断の結果を受け止めきれなかったり、自分たちが捉えている課題と違ったりしたということもあるかも知れません。しかし、課題を真摯に受け止めるという姿勢があってこそ、次のステップに踏み出せるのではないかと思います。数年の助成で大きく成長する団体は、必ず組織診断の結果を真摯に受け止め、そこから次の方向を考え踏み出して行くというストーリーが見える展開になっています。せっかくの組織診断の結果を有効に活用してもらいたいと思います。

もう一つのポイントは、組織基盤を強化していくための人件費に対する考え方です。これまで人件費は、基本的には「日常的な業務に必要な人件費」ではなく「組織基盤強化事業に取り組むための人件費」としてきましたが、再検討が必要ではないかと思いました。組織基盤の一つに「人材」がありますが、日常の業務を通して人材が学び育つのは明白です。ましてや、少人数で働くことの多いNPOの場合、マニュアルやテキストはありません。事業が増えてから人材を確保して育成するのではなく、今後の事業の拡大や展開を見込んで人材を確保して育成するための先行投資的な費用として捉え、人件費を計上していくことも重要ではないかと考えます。今回、人材に対する先行投資も組織基盤強化に必要な経費として認めました。

新規助成の選考ポイント
-子どもに関わる社会課題の捉え方

新規助成の募集と選考は、今年度が最後の年になりますので、子どもに関わる社会課題の捉え方について私の考えを少し述べておきたいと思います。

この15年間、毎年のように子どもに関わるNPOが新たに誕生しており、その時々の子どもの社会課題が応募団体を通して見えてきました。子どもに関わるNPOの活動内容とその特徴は年々バリエーションが増え、子どもに関わる社会課題はますます横断的な広がりを持つようになり、ひとつひとつの課題を様々な視点から捉える必要性を感じながら、審査に当たってきたように思います。

改めて子どもの育ちを考えると、その視点と課題は様々です。乳幼児期は食や健康など生存に関わる課題が中心になりますが、小学生になると様々なことを学び育つ教育が大きくクローズアップされます。日本では教育=学校という考え方が大きいので、学校での学びを充実させると共に、学校外での学びの場をどうしていくのかが課題になります。また、子どものあそびや文化をどう保障するかは、子どもたちの心や生きる力を育む上で重要な課題になります。

このように様々な課題に取り組む子どもNPOが、常に持ち続けなければならない視点は、「自分たちの活動だけでは、子どもたちの健全な成長は保障できない」ということを認識しながら活動することだと思います。自分たちの地域は自分たちで豊かにしていくという自覚をもった市民が、それぞれが目指す社会像を見据えながら、子どもに関わる社会課題を俯瞰的かつ長い時間軸の中で捉え、子どもに関わる様々な分野を超えて人々とつながり、地域で活動する人たちとの協働や行政と連携して活動することが大変重要だということです。

国は、21世紀に入ってから「青少年育成施策大綱」を策定しました。それまで、文部科学省や厚生労働省など様々な省庁が縦割りで行っていた子どもの施策が、総合的にどこを目指していくものなのかを示したものです。その中で、子どもの健やかな成長のためには、全ての大人が子どもの育ちを応援する必要があると明記しています。
一つ一つに特化した専門性を持つNPOがこの社会に存在することの意味は、「市民として育ちゆく子どもの姿」を想像しながら目の前の子どもたちに関わっていく大人の市民集団であることのように思います。

近年、助成の対象となった団体が、組織基盤強化で何に取り組まなければならないのかが明確になっていたものが多かったように感じるのは、それぞれの団体が活動を充実させると共に、こうした社会の変化を反映して、より広い視野をもった市民の活動が展開されているからかもしれません。
今年度の応募団体の中に、ユネスコ世界無形遺産となった能楽の普及と伝承をミッションとする公益財団法人がありました。残念ながら助成には至りませんでしたが、私はこれを新しい挑戦として受け止め大変感銘を受けました。自分たちが子どもたちの手の届く組織となるために外部の客観的な視点を取り入れて組織基盤強化に取り組みたいという真摯な姿勢は、子どもに関わるNPOが学ぶべき大人のあり方を示してくれたような気がしています。

<選考委員>

★選考委員長

森本 真也子

特定非営利活動法人 子どもと文化全国フォーラム 代表理事
特定非営利活動法人 子ども文化地域コーディネーター協会 専務理事 ★

関 尚士

公益社団法人 シャンティ国際ボランティア会 理事・事務局長

中村 国生

特定非営利活動法人 東京シューレ 事務局長

林 大介

子どもの権利条約ネットワーク事務局長・東洋大学非常勤講師

福田 里香

パナソニック株式会社 ブランドコミュニケーション本部 CSR・社会文化部 部長