2021年7月12日から15日の4日間、オンラインにて「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs 20周年記念 シンポジウム・ウィーク」を開催しました。4日目の15日は「NPO『支援力』応援プログラム」の取り組みを紹介し、262人の参加申し込みをいただきました。
この日は、プログラム立ち上げ当初から企画に携わってきた日本NPOセンター事務局長の吉田 建治 氏をモデレーターに迎え、事例報告やディスカッションを通して、NPO支援者の手法と心構えについて意見交換しました。

●95人がプログラムを受講し、参加者のコミュニティを形成

日本NPOセンターでは、「組織基盤強化ワークショップ」「NPO『支援力』応援プログラム」をパナソニックと協働で展開しています。
この「NPO『支援力』応援プログラム」は、サポートファンドが2011年より、第三者の客観的な視点でNPO/NGOの組織基盤強化を伴走支援する仕組みを助成プログラムに採り入れたことを受け、その伴走支援者を育成するための研修プログラムです。2014年からNPO/NGO中間支援組織のスタッフを対象に組織基盤強化を支援するために必要な知識と技術を体系的に学べる研修を実施しており、これまでに95人が受講しています。

写真
認定特定非営利活動法人
日本NPOセンター
事務局長 吉田 建治 氏

●事例報告①

初めての伴走支援で団体と共に成長し、今も支援を継続

あの屋は2015年から北海道・旭川を拠点に、NPOが本来のミッションに集中できる環境づくりのお手伝いをしています。大切にしていることは「①当事者の声・受益者の未来を思い描く、②非当事者としての意識をもつ、③自分事化しすぎず、通訳はしても代弁はしない」の3点です。
2016年にサポートファンドの「NPO/NGOの組織基盤強化のためのセミナー」に参加し、サポートファンドの助成団体である「NPO法人 大雪山自然学校」の伴走支援をすることになりました。1年目の2017年は組織診断とビジョン・ミッションの見直し、2年目の2018年はファンドレイジング計画の実践や事業評価に取り組みました。初めての伴走支援でしたが、「一緒に成長しよう」と約束し、大雪山自然学校はスタッフ数も事業規模も助成前の3倍に。助成を終えた今も事務支援の契約を結んでいます。

私が思う組織基盤強化とは、NPOの夢の実現に向けて組織の継続性と資質を見直すこと。伴走者としては次の3点を大事にしています。

  1. なぜ、何のために、誰のために活動があるのか問い続ける。
  2. 人・地域・時代で価値は異なることを忘れない。
  3. 共に学び合う真摯な関係づくりを大切にする。

●事例報告②

答えを導き出し整理する、NPO支援センターの役割

私は「福島市市民活動サポートセンター」と県域の「ふくしま地域活動団体サポートセンター」の所長をしています。「NPO法人 子ども緊急サポートふくしま」の例を紹介すると、1年3カ月の間に7つほどの相談を受け、組織にリサーチに行きました。一緒に作業をしながらスタッフから話を聞き、キーパーソンが誰なのかを探り、問題を整理しました。
NPO支援センターの役割は相談者の中にある答えを導き出し、整理することです。ニュースレターの取材や助成金プログラムのヒアリング、いただきもののお菓子を届けるなどと言っては団体を訪問し、活動を見て、その雰囲気に自分も入り込むことで信頼を得ていきます。自分の経験や情報の引き出しをフル活用して、新入職員の育成プログラムを一緒につくったり、市の補助金につないだりと、定期的に伴走できる距離で基盤強化をしながら、サポートしていきます。

組織基盤強化とは日頃気にも留めない部分に注目し、骨組みを見直す調整のこと。見える課題は、実は課題ではない可能性もあります。相談者の話を否定せず、即座に判断せず、上から目線にならないことが大切です。

●意見交換

参加者からの質問に3人の支え手が回答

登壇者
NPO運営サポート・あの屋 佐藤 綾乃 氏
ふくしまNPOネットワークセンター 内山 愛美 氏

コメンテーター
NPO組織基盤強化コンサルタント office musubime 代表 河合 将生 氏

意見交換の様子

――「自分事化しすぎない」ための、支援先団体との距離感について教えてください。共感との違いは何ですか?
佐藤氏 あの屋を立ち上げる前、長く障がい当事者のNPOにいたので、非当事者としてピアの領域には入らないようにしています。「わかる、わかる」と共感の示し方をして嫌な思いをされたようだったら、それは入り込みすぎている証拠。そういう距離感は団体と支援者にも必要だと考えています。

――「見える課題は課題ではない可能性がある」とは、どういうパターンですか? そう言って相談者は納得するのでしょうか?
内山氏 「お金が安定しない」という相談があれば、助成金を紹介するなどして解決はします。そこから「信頼はあるのに、どうしてお金が集まらないんだろう?」と話をもっていくと、「実は、この活動があまり知られていない」などと、ほかの困り事が出てくるので、そこを深掘りしていきます。
河合氏 話をよく聞くと、例えば「会計が弱い、会計の処理が滞る」というケースでは、会計の知識や処理方法の問題ではなく、組織内のコミュニケーションに齟齬があったり、「世代交代が課題」というケースでは、事業の定着や拡大の一方で、団体のミッションや価値観について話し合う機会が失われ、団体の存在意義が共有・継承されず、人材が定着しないという問題が根底にあったりします。

――伝統や習慣を重んじるリーダーの中には、変化に否定的な人もいます。どう向き合えばいいですか?
佐藤氏 変化を受け入れる姿勢をもつことが組織基盤強化に取り組むためのスイッチ。話し合いの場を設けるなどして、過程を大事にしながら、全員が少しずつ変化していく様を見届けるのが私たちの役割だと思っています。

●総括コメント

当事者じゃないからこそ問いかけ、新たな視点を提示できる

ひな鳥が卵の中から殻をつついた時、親鳥が外側からつついて孵化を助ける「啐啄同時(そったくどうじ)」という言葉があります。外部から関わる支援者も相手の状況や成長段階を観察し、よく聞き、問いかけを通して新たな視点を提示したり、後押ししたりすることが大切です。
組織診断・組織基盤強化の取り組みを一時的なものにせず、日常化し、組織文化にしていく。NPO支援センターの役割は一緒に水や栄養を与え、木を育てていく過程に似ています。
目に見えていることは相談しやすいですが、本当にそれが今やるべきことなのか、当事者ではないからこそ問いかけることも重要です。私自身、サポートファンドの子ども分野・環境分野での伴走支援を経て、今は国内・海外助成プログラム助成先団体の伴走支援者として携わっていますが、長く関わっているからこそ、その分野や団体の文脈を理解できることもあれば、初めて関わるからこそ自然な問いかけができることもあります。パナソニックのプログラムの中に、豊かな支援者のコミュニティができていることを今日改めて感じることができました。

集合写真