NPO法人 フェロージョブステーションの組織基盤強化ストーリー

ICTの習得を通じ、障がいのある人の就労や生活を支援。
職員全員の目標を共有し、一人ひとりの自主性が強化

愛媛県松山市で障がいのある子どもから大人までを対象に、情報通信技術(ICT)を身につける「フェローLabo」を運営している「NPO法人フェロージョブステーション」。組織のビジョンを職員個人の業務と結びつけたいという課題をどう解決したのか? その取り組みを聞いた。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第359号(2019年5月15日発行)掲載内容を再編集しました]

多様な児童がICTに親しむLabo
申し込み待ちが出るほどの人気

「フェロージョブステーション」の理事長を務める三好大助さんはもともと、システム開発の会社を経営していた。
「ある時、僕の友人に障がいのある子が生まれ、友人は障がいのある人も幸せに生きていける社会を目指してNPOを設立。僕も作業所の授産製品を売る手伝いをしましたが、工賃が不相応に安いことに疑問を感じました」

ちょうどそんな折、三好さんの会社はネットショップの運営を始めた。
「ネットショップなら障がいがあっても、自分で企画したものを販売し、お客さんとも直接やり取りできるのではないか」。そう考えた三好さんは障がい者を対象にしたネットショップ店長の養成講座を開いた。5時間の講義を25日間受けるハードな講座には7人が参加。中には、脊椎損傷で寝たきりの若者もいた。「彼はお母さんの送迎で通い続けて実際にネットショップの店長になり、実家の農家が育てたブドウや地元の特産品を販売するようになりました」

フェロージョブステーション
理事長 三好 大助さん

まもなく三好さんの会社は、障がいをもつ人がICTを身につけることで一般企業に就職するのをサポートする「就労移行支援」を始めたが、全員が就職できるわけではなかった。そこで、働く場となる「就労継続支援A型事業所」をつくるために2010年、「NPO法人フェロージョブステーション」を立ち上げた。

「就労継続支援A型事業所の『フェローLabo』では障がいのある20~65歳までの方が企業からの依頼で、名刺やチラシの作成やロゴのデザイン、データ入力などを行っています」
しかし、「せっかくなら子どものうちからICTに親しんだほうが、大人になって活躍の場が広がるのではないか」との思いから、小学1年~高校3年までを対象にした「放課後等デイサービス」を開始。ICTの習得に加え、社会生活を送る上で必要となる人間力や社会性を養うために、現在グループ全体で180人の子どもたちが個別支援を受けている。
「コンピュータに触れて楽しさを知る」「簡易的なプログラミング言語を学んだり、ロボットを動かしたりする」「就職に向けて、ホームページ作成や動画の編集、イラストレーターの操作などを学ぶ」と、段階に分かれた3つの事業所を展開しており、どれも申し込み待ちが出るほどの人気だという。

「フェローLabo」で
パソコンスキルを学ぶ子どもたち

絵の才能を発揮する双子の男の子
盲学校出て社会福祉士目指す女性

「フェローLabo」施設長で事務局長の馬場友加吏さんに、利用している子どもたちの様子を聞いた。
「開所当初から通ってくれている自閉症の双子の男の子は、初めは慣れない環境に興奮していましたが、今では自分たちの意志を表現できるようになり、周りに対しても感謝や我慢を示せるようになりました。二人とも絵が得意で、イラストレーターやフォトショップを使ってPCでも作品を描けるようになりました。地元のレストランに作品が飾られるような機会も増えています。当法人でも、子どもたちの才能を広く発信する取り組みを行っています」

また、Laboに1年通いながら盲学校を卒業し、大学に進学した21歳の女性はつい先日、「フェロージョブステーション」で1週間職場実習を体験。今は社会福祉士を目指して猛勉強中だという。「卒業生が社会に出て、活躍していこうとする力強い姿は職員の励みにもなっています」

事業は順調に活動を続けてきたように見えるが、壁にぶつかった時期もあった。 「放課後等デイサービスを始めて1、2年が経った頃、自主事業が拡大し、スタッフも増え、理事も入れ替わる中で、学校や家への送迎、一人ひとりの成長の把握、日々起きることへの対応など目の前の仕事に追われ、現状のままではスタッフが倒れるのではと不安を感じる時期がありました」と、三好さんは振り返る。

フェローLabo
施設長・事務局長 馬場 友加吏さん
子どもがパソコンで作成したイラスト

「団体が何のために存在するかとか、そういうことを話し合う機会も持てない状況だった」と馬場さん。
そんな時、参加したのが2016年に松山で開かれた「組織基盤強化のためのワークショップ」だった。これを機にPanasonic NPOサポート ファンドの助成に応募、2017年からの2年間、助成を受けることになった。

対象は小学1年生から65歳まで
さらに支援の幅を広げていきたい

助成1年目は、まず組織診断を行った。「コンサルタントの方に朝礼や理事会、役職者の会議、職員勉強会の様子を見ていただき、その都度、職員へのアンケートやヒアリングをしてもらいました。もともと団体が掲げていたビジョンはありましたが、それが自分の業務にまで結びついていないことが課題として明らかになりました」

そこで、助成1年目の後半には、全員参加の合宿を実施した。
「1日目は役職者向けのリーダー養成研修で、リーダーはどうあるべきか、一人ひとりのよさを引き出すにはどうすればいいかといったことをコンサルタントの方が話し、そこで学んだファシリテーション手法をもとに、2日目は職員全員でディスカッションやワークショップに取り組みました」と三好さん。

「組織のビジョンを改めて再確認し自分の強みや個性を分析した上で、働く者として、一人の人間として『最終的になりたい自分』を設定。今、何が足りないか、それを得るためにはいつまでに何をすればいいかを逆算してもらい、それらを一冊の手帳にまとめました。組織の方向性とともに、全員のビジョンや目標を職員が携帯して見られるように毎年更新していく予定です」と、馬場さんが詳細を説明してくれた。

2年目は組織と個人の課題も出し合い、どうすれば解決に向けたPDCAを回していけるかを話し合った。本音で話せる空気ができたことで、職員主体のプロジェクトも増えた。

写真:フェローLabo 施設長・事務局長 馬場 友加吏さん

「自分たちで協賛企業を集め、地域を巻き込んで、道後公園で開催した夏祭りには600人近くが来場してくれました。これまで単発だった保護者向けの勉強会もしっかり学んでもらえる連続講座にし、講師と保護者が交流できる形にしました。学生ボランティアも増え、私たちと子どもたちを取り巻く環境が豊かになったのを感じています」と、馬場さんはこの2年の成果を話す。

そして三好さんは最後に、今後の夢をこう語った。
「今、私たちの活動は小学1年生から65歳くらいまでを対象としていますが、利用者の親御さんが一番心配しているのは親亡き後のこと。今、私たちが感じているやり甲斐・生き甲斐・働き甲斐を当法人にかかわるより多くの方に感じてもらえるように、就学前の子どもたちや65歳以上の方の看取りのところまで、支援の幅を広げていきたいと思っています」

※ PDCA:業務の効率化を目指す手法の一つ。Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字をとったもの

写真:フェロージョブステーション 理事長 三好 大助さん

(団体プロフィール)
NPO法人 フェロージョブステーション
障がいをもつ人がICTを利活用することで、仲間と助け合いながら自分たちの力で仕事を見つけ、社会に参加できるようになることを支援。就労継続支援A型事業、指定放課後等デイサービス等を行っている。