認定NPO法人 みやぎ発達障害サポートネットの組織基盤強化ストーリー

すべて保護者の声から生まれてきた事業。 発達障害の子どもの療育を担う、地域のハブ的な存在になりたい

すべて保護者の声から生まれてきた事業。
発達障害の子どもの療育を担う、地域のハブ的な存在になりたい

全国でも先駆的な小グループ療育プログラムで注目されてきた「みやぎ発達障害サポートネット」。10年以上にわたり、発達障害のある子どもと家族に寄り添う。3年におよぶ組織基盤強化事業を終えて、支援者育成へと活動の幅を広げる新たな一歩を踏み出した。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第311号(2017年5月15日発行)掲載内容を再編集しました]

先駆的プログラム「プリズム」
自分らしさや自己肯定感を育む

活動の始まりは2005年5月。「発達障害のある子どもをもつ親たちが開いた勉強会がきっかけだった」と、現在「みやぎ発達障害サポートネット」代表理事の相馬潤子さんは言う。

事務局の猪股絵理子さんは「2005年4月に『発達障害者支援法』が施行されたばかりで、発達障害の本もセミナーもまだ少ない時代。保護者7人と退職した学校の先生1人の8人で立ち上げ、2006年10月には市民団体として活動を始めました」と当時を振り返る。

相馬さんによると、今につながる事業の多くは、この時期に始まった。

写真:みやぎ発達障害サポートネット 猪俣絵里子さん

みやぎ発達障害サポートネット
猪俣絵里子さん

写真:みやぎ発達障害サポートネット 代表理事 相馬潤子さん

みやぎ発達障害サポートネット
代表理事 相馬潤子さん

「子どもの特性に合わせた課題に取り組み長所を伸ばす『療育』、子どもへの接し方に悩む保護者や支援者をサポートする『相談』、保護者同士が交流する『おしゃべりサロン』、全国から発達障害の研究者や実践者を呼んで市民向けのセミナーを開く『学び合い』、会報誌『すぽっと』による情報発信など、すべては保護者の声から生まれたものです」

2、3歳の未就学児から高校生まで約150人を対象とする「療育」の中でも、自主事業の「プリズム」というプログラムは先駆的事例として全国から注目を集めているという。これは「個別支援のほかに3、4人とか5、6人の小グループ活動もあり、調理実習、ゲーム、地元のサッカーや野球チームの応援などの活動をしながら、自分らしさや自己肯定感を育むというものです。発達障害の子は先の見通しがもちにくく、初めて経験することが苦手なので、たとえば、スポーツ観戦なら事前の応援練習やお弁当の買い方などを細かく説明することで不安を取り除きます」

8年近く「プリズム」に通うある高校生は「行動が遅く時間の使い方が苦手で、小さい頃からどうしてほかの人のようにできないのか悩んできたが、時間がかかる分、一つひとつのことを丁寧に処理できる長所に気づくことができ、自信がもてた」と、ブログにつづっている。

また、保護者から寄せられる相談で最も多いのが「子どもにどう声がけしたらいいか、わからない」という悩みだが、「おしゃべりサロン」に参加した保護者は「これまではネットで情報を見るだけで子育ての悩みを誰にも話せず、もやもやしていたが、ここでみなさんと話ができて気持ちが楽になった」と会報誌に感想を寄せている。

写真:「療育」「プリズム」というプログラムの様子

避難所での不安感や音への過敏。
子どもたちに日常を取り戻そうと
震災3日後に活動を再開

このような特性をもつ発達障害の子どもたちだけに、2011年3月の東日本大震災の際には大変な思いをしたと猪股さんは話す。
「大勢の人が集まり、イレギュラーなことばかり起きる体育館などの避難所で、見通しの立たない不安感や音への過敏さに悩まされ、車の中で避難生活を送った人もたくさんいました。幸い、私たちの建物に甚大な被害はなかったので、少しでも早く日常を取り戻そうと3日後には活動を再開しました」
当時の団体は、代表理事の交代、事務局長不在など組織体制が大きく変わる中、利用する子どもたちの数が増え、事業の規模は拡大。「13人いる職員はいくつもの業務を掛けもちし、目の前の事業をこなすだけで精いっぱい」という多忙な毎日。「このままでは職員が疲弊し、子どもたちと向き合えなくなる。自分が組織全体の中でどのような役割を果たすのか見えなくなっている」と危惧した相馬さんらは、「事業中心から、法人組織を考えた視点を持てるようになりたい」と願い、仙台市内で開かれたPanasonic NPOサポート ファンドの説明会を兼ねた「組織基盤強化ワークショップ」に参加した。

助成が始まったのは2014年の1月。宮城県内のNPOを支援する中間支援組織である「NPO法人 杜の伝言板ゆるる」代表理事の大久保朝江さんをコンサルタントに迎え、まずは「市民活動とは何か」というレクチャーを受けた。
続いて、組織診断に取り組み、理事と職員合わせて12人が「ミッションを自分の言葉で説明できるか」など155の設問から成る「NPOマネジメント診断シート」でチェックし、その回答をもとに、大久保さんが個別にヒアリングを実施した。さらに、「毎週木曜日の午前中にはワークショップなどの時間を確保し、組織の課題や強み・弱みについて話し合いました。ここで初めて、職員同士が率直に意見を出し合える土台が築けたように思います」と相馬さんは言う。

広い新拠点で事業規模拡大へ
期待される
人材育成センターとしての役割

こうして導き出された組織診断の結果を受けて、9月から組織基盤強化に取り組んだ。
「全職員で話し合いを重ね、3年間の中期計画と行動プラン、数値目標を設定しました。組織全体のことがわかっていないと中期計画は立てられないので、職員一人ひとりが組織の問題を自分の問題としてとらえる姿勢が身につきました」

この中期計画に基づき、2年目はより高い専門性を目指して外部から療育の専門家を招き、中堅職員の人材育成に力を注いだ。3年目には、これまでの療育課題実践事例を集めたテキストを作成し、発達障害児の支援者を対象とした教材づくりワークショップを開催。「今まで蓄えてきたものを活かし、発達障害児を支援する仲間の輪を広げていく第一歩」を踏み出す。

写真:みやぎ発達障害サポートネット 代表理事 相馬潤子さん
写真:杜の伝言板ゆるる 代表理事 大久保朝江さん

杜の伝言板ゆるる
代表理事 大久保朝江さん

今回、3年間の取り組みに伴走した大久保さんは言う。「仙台市内でも、発達障害児の放課後ケアに取り組む事業者は増えている。みやぎ発達障害サポートネットには、療育全体の質を高める人材育成センターとしての役割を期待しています」
また、地域の支援センターが個々のNPOに関わる意義についても、こう話す。「市民活動が地域に根を張り長く継続することが市民社会の充実につながる。それをサポートするのが私たち地域の中間支援組織の役割ですが、信頼関係を丁寧に築きながら助成事業を通じて知見やネットワークが相互に作用し、より地域社会に活かされていくという好循環につながっています」

みやぎ発達障害サポートネットでは中期計画に従って、今秋、新拠点へ移る計画が進行中だ。面積も、現在の90m2から150m2に広がる予定だ。「活動拠点が広くなるということは、より多くのニーズに応えられるようになること」と、相馬さんは希望を込めて言う。
「発達障害の子どもの療育を担う地域のハブ的な存在として、一人でも多くの子が自分らしさを大切にできる大人になれるように私たちの活動を広げ、社会に子どもたちへの理解を深めていきたいと思っています」

写真:認定NPO法人 みやぎ発達障害サポートネット

[団体プロフィール]認定NPO法人 みやぎ発達障害サポートネット
2005年、任意団体として勉強会を始める。07年、NPO法人として認定を受ける。自閉症・発達障害のある本人と家族一人ひとりを大切にした安心して暮らせる社会づくりを目指し、療育事業、おしゃべりサロン事業、相談事業、学び合い事業、情報発信事業などに取り組む。2016年度「みやぎ社会貢献大賞」受賞。

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