組織基盤強化助成へのチャレンジ

「Panasonic NPOサポート ファンド」は2010年の公募で10年目を迎えました。組織基盤強化を助成趣旨とする本プログラムに対して、10年間助成資金をご提供いただきましたパナソニックに対し、まずは心よりの敬意を表し、厚く御礼申し上げます。また、膨大な応募書類に丹念に目を通し、毎回半日以上にも及ぶ選考委員会で熱心なご審議をいただきました川北秀人委員長をはじめとする各委員の皆様、助成プログラムの公募説明会やワークショップの開催に伴い多大なご協力を賜りました各地のEPOやNPOの中間支援組織の皆様にも、心より御礼申し上げたいと思います。

環境分野協働事務局:
特定非営利活動法人 地球と未来の環境基金 専務理事 古瀬 繁範氏

直感として「これだ!」という思いを抱いた

環境分野の本助成プログラムは、2002年に公募をスタートしました。当時の本助成プログラムのパナソニック側ご担当者が、私どもの団体(EFF)においでになられたのは2001年の秋のことでした。当時の私は、それ以前に勤務していた「日本リサイクル運動市民の会」という環境団体で助成金を申請した経験から、助成金に対して漠然とした危機感と疑問を感じていました。即ち、現在も多くの助成金とNPOの関係がそうであるように、活動が過度に助成金へ依存することへの危惧、活動の質を左右する事務局人件費がカバーされない助成金への疑問です。

殊に環境分野のNPOにとって、活動資金といえば助成金が代表的です。しかし、仮に助成金を獲得できても、事務局人件費は極めて乏しい自己資金で捻出せねばならず、一方で助成事業を実施するための諸々の調整、管理業務の負担は相当に重くのしかかります。複数の助成金が獲得できても、外部の講師やアルバイトに謝金は払えるものの、その団体の自己資金がなければ担当者はどんどん忙しくなり、実質的にはタダ働きが続きます。3月末を迎えて膨大な報告書と会計処理に追われ、桜が散る頃には疲弊し燃え尽きてしまう…。そんな環境団体をいくつも見て来ました。仕事を重ねるごとにノウハウが蓄積され、団体のスタッフが育ち、より社会にインパクトを与えうる活動へと発展して行く。そのための資金源の一つが助成金であるはずなのですが、助成金が活動財源のほぼ100%で、その資金が途絶えると活動が停止すると危惧される団体も数多くありました。何か変だな。そんな漠然として疑問を抱いていた所へ持ち込まれたのが、NPOの組織基盤強化を支援する助成プログラムの運営をやらないか・・・というお話でした。お話を聞いて、直感として「これだ!」という思いを抱いたことを鮮明に覚えています。活動そのものではなく、組織基盤強化の取り組みに資金を提供するという助成のコンセプトは、まさに私が感じていた疑問に真正面から取り組める絶好の機会だと感じました。

助成プログラムとともに自分たちも成長

私どもの団体は2000年7月にNPO法人認証を得て、実質的には2001年から活動をスタートした団体です。これは決してお世辞でも大袈裟でもなく、団体設立からの10年の成長は、パナソニックの助成協働事務局を運営することにより実現できたといっても過言ではありません。審査や事務局実務等様々な形で環境分野の複数の助成プログラムに関与するようになった他、企業の社会貢献活動とタイアップした日本国内での森づくり活動は全国6箇所に広がりました。2007年には、大阪で開催された「IAAF世界陸上」の環境プロジェクトに参画し、会場募金やスポンサーから集まった寄附金によるインドネシアでの植樹事業をコーディネートしました。タイにおいて、サトウキビの絞りカスを活用したパルプ工場(EPPCO社)の建設プロジェクトに参画したり、北部山岳民族の支援活動を行うようになりました。地球の肺とも言われるブラジル・アマゾン地域では、小規模農民が熱帯林を持続可能な形で活用できるよう「森林農業(アグロフォレストリー)」の支援を行っています。事務局体制も常勤3名、非常勤3名に増え、年間予算5千万前後という所まで成長することができました。パナソニックの助成協働事務局を運営する中で、企業社員の日々の仕事ぶり、書類の作り方、段取りの組み方などなど、大変多くのことを学ぶことができたことは、極めて有益であったと感じています。

次のテーマは客観性のある「診断」のプロセスと機能の強化

2011年の公募から本助成事業は新しいステージに入ります。これまで約10年間協働事務局を務める中で最も課題を感じていたのは、応募団体の皆さんが応募書類で記載される組織課題に関する自己分析の精度です。2006年からの本助成選考委員長、川北秀人氏が常々言われるように、応募団体は病院に来られる患者であると思います。来院された患者は、自身の病状を「あそこが痛い」、「ここが苦しい」等々と医師に説明します。患者自身が自分は〇〇病ではといった推測もしますが、それは往々にして間違っているケースが多いのです。同様に、組織で起こっている日々の問題は見えていても、それは何が原因なのか、どこに解決すべき課題があるのか、応募書類の中で自己分析を記載するページは選考上最も核心となる所ですが、残念ながらこの10年間に目を通した案件で自己分析が的確にできている団体は極めて少なかったのが実情です。新しい助成プログラムでは客観性のある「診断」というプロセスと機能を強化することが大きなテーマです。組織が抱える問題点(病状)の原因を、団体側の自己申告をベースにどれだけ正確かつ客観的に「診断」できるか、その「診断」から実際の「治療」となる処方箋(組織基盤強化事業)を作成するのは応募団体ですが、その前提となる「診断」の精度を向上させることで、効果、効能の高い処方箋を作成することが可能になると考えています。

私ども協働事務局は、各地の中間支援組織のご協力、ご支援も得ながら、「組織課題の診断」⇒「組織課題の改善・解決(治療)」⇒「組織力の継続的向上(健康増進)」につながるような組織基盤強化助成のプログラムへと改善して行きたいと考えています。引き続き多くの方々のご指導、ご鞭撻を賜りますようお願い致します。