特定非営利活動法人 エイズ孤児支援NGO・PLASの組織基盤強化ストーリー

ウガンダとケニアのエイズ孤児世帯の生計向上を目指す
組織の中長期計画やビジョンを見直し、寄付増加へ

ウガンダとケニアでエイズ孤児やHIV陽性のシングルマザーを支援してきた「エイズ孤児支援NGO・PLAS」。
駐在型から、現地に根ざした団体と協働する“パートナー型”へとシフトするまでの道のりと、課題解決のための取り組みについて聞いた。[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第361号(2019年6月15日発行)掲載内容を再編集しました]

エイズ孤児、世界で約1220万人
学校に通える生計向上支援事業

「エイズ孤児支援NGO・PLAS」はアフリカでボランティア経験のある学生ら7人が、エイズ孤児の問題に取り組もうと2005年に設立した団体だ。代表理事の門田瑠衣子さんは次のように語る。

「エイズ孤児とはエイズで片親か両親を失った子どものこと。世界に約1220万人いるといわれ、8割以上がアフリカの子どもたちです」
治療薬の普及によりエイズは死の病ではなくなってきたが、誤解や偏見からの差別は続いている。「ケニアとウガンダで、おもにエイズで夫を亡くし、自らも感染したシングルマザーと子どもの家庭を支援していますが、親は差別されて就職できず、子どもは貧困やいじめによって小学校すら中退せざるを得ない状況があります」

エイズ孤児支援NGO・PLAS
代表理事 門田 瑠衣子さん

小学校は義務教育だが、生活苦で進級に必要な有料のテストを受けられず、留年を繰り返す子どもも少なくない。そこで「家計を向上させることで、子どもが学校に通い続けられるようにする生計向上支援事業」を始めた。

たとえばケニア共和国のホマベイ郡では、HIV陽性者のシングルマザーらが在来野菜を栽培し販売することで生計を向上させている。

「土の保水力が弱い上に、木を切って薪にしてしまう習慣があるため土が乾燥し、作物が育ちませんでした。そこで、果実が採れるマンゴーなどの木を畑の周りに植えて保湿力を高め、肥沃な土地に改良していきます。また、家畜が野菜を食べないように畑をフェンスで囲み、水場が遠い家には水を運ぶロバを提供しました」

HIVの治療薬は国から無償で提供されるが、十分な食事を取らず、空腹のまま飲むと副作用が出ることもあり、服薬をやめてしまう人もいる。採れた野菜を食べ、販売することは、収入だけでなく健康の維持にも役立っている。

写真:支援を受けるシングルマザーとエイズ孤児。ケニア共和国ホマベイ郡、生計向上のための畑にて
写真:ケニア共和国ホマベイ郡でライフプランニング支援を受ける子どもたち

このほか、ウガンダ共和国ルウェロ県ではHIV陽性者のシングルマザーを対象に、ドーナツやミックスジュースを作る研修などを行い、彼女たちが共同運営するカフェをオープン。3期生まで育ったという。

ウガンダ共和国ルウェロ県で支援を受けたシングルマザーたち。カフェ事業卒業時の様子

一人に7回のカウンセリング
自己肯定感を育み、未来を切り拓く

「エイズ孤児は就職にも困難を抱えていますが、それは教育を受けていないせいばかりではありません。どうせ自分には何もできないからと、初めから将来をあきらめている子もいます」
そこで「エイズによって影響を受ける子どもたちが、自ら未来を切り拓いてゆける社会の実現」というビジョンを掲げ、生計向上支援事業と並行する形で取り組んでいるのが「ライフプランニング事業」だ。

「保護者に子どもの発達や教育、家計に関する知識を提供し、子どもには将来を描くプログラムを提供することで、子どもたちの自己肯定感を育んでいくプログラムです。ケニア共和国のホマベイ郡では、カウンセラーが1対1で保護者と子ども、それぞれに7回程度のセッションを行っています。子どもたちの好きなことを絵で表現してもらい、それが将来の職業にどうつながっていくのかを見つけながら、進学の意欲を高めていきます」

小学5・6年生の子どもたちには、地域でさまざまな仕事をする大人たちから話を聞くキャリアトークイベントの機会も設ける。
2014年には、現地の団体と連携する現在の“パートナー型”へのシフトに取り組み始めた。そのために、2014年から2年間、NPOサポート ファンドの助成を受け、より強く安定した財政基盤を築き、新しい体制を支えるべく、組織基盤強化に取り組んだ。

まずは「個人からの寄付を増やすこと」を目標に掲げたが、組織診断の結果、「中長期計画がしっかりしていない」「計画を定期的にモニタリングして、組織内で共有できていない」「ミッションやビジョンを支援者に伝えきれていない」という新たな課題も見えてきた。
そこで助成1年目は理事会を強化、中長期計画やミッション・ビジョンを見直し、これまでのイベントを分析。「その結果、団体の設立からのストーリーを紹介後、スタッフやリピーターとの交流会を設けると、寄付が増えてきました」

現地パートナーと事業展開
貧困や差別をなくす力を育む

さらに、寄付者60人に実施したアンケートにより、寄付の動機やきっかけ、ライフスタイルなどを分析。うち10人には個別でヒアリングも行った。「PLASを知ったきっかけや家族構成、購読雑誌、休日の過ごし方などを聞き、支援者像が見えてきました」
「具体的な対象者が見えたことで、イベントのテーマやゲストを設定しやすくなり、2%だったイベント参加者の寄付率は20%にまで伸びたイベントもありました」。そして助成2年目は、実際に“パートナー型”にシフトした事業を回しながら、現地が抱えている課題を整理した。
「当事者の抱える課題を明確にするために、支援を受けずに18歳になったエイズ孤児30人に話を聞きました。彼らがもっとも精神的なダメージを受け、つまずいたのは親を亡くした時と学校をやめた時。ほとんどの子がエイズのことでいじめや暴力を受けていて、自己肯定感が低かった。学校に通わせるための収入確保と心理的なカウンセリングが必要だとわかり、二つの事業を両輪とする今の形ができました」

写真:エイズ孤児支援NGO・PLAS 代表理事 門田 瑠衣子さん

助成を受けたことで16人のシングルマザーを支援でき、世帯収入は1.5倍に。76人の子どもが就学、そして現地パートナーと事業を展開する基盤ができた。ICTをまったく使えない現地パートナー団体もあるが、「小さくても意欲があって、キラリと光るものをもっている団体と組んで、一緒に成長していきたい」と門田さんは言う。

「新しい事業を始める時は“エンジンを加速させるドライバー役”を探し、関係する省庁の職員にも会議に参加してもらいます。そうやって多くの人を巻き込んでいくのが私たちの強みであり、事業のおもしろさでもあります」
現在、教育省や保健省、児童局の職員からもアドバイスを得ながら、エイズ孤児とのコミュニケーションの取り方やカウンセリングの方法をまとめたマニュアルを作成しつつあり、完成したものは将来的に関係省庁や現地のNGOに活用してもらう予定だ。
「助成を受けるまでは、事業の計画を立てて実行して終わりでしたが、助成後は何を成果とするのかを定義し、達成できなかった場合も改善点を見つけるための振り返りができるようになりました」

今のパートナー団体と支援地域を広げていくのか、ほかの団体と組むことで他地域にも広げるのか。あらゆる可能性を模索しながら、現地でのネットワークを広げ、子どもたちが未来を切り拓く力を現地で育むのが大きな目標だ。

(団体プロフィール)
特定非営利活動法人 エイズ孤児支援NGO・PLAS
ウガンダとケニアで、エイズ孤児の問題に対し、地域のニーズに根差したNGOとして、現地の人々と共に活動を展開。PLASは「Positive Living through AIDS orphan Support」の略。第2回ジャパンSDGsアワードSDGs推進副本部長(外務大臣)賞受賞。