認定NPO法人 フリー・ザ・チルドレン・ジャパンの組織基盤強化ストーリー

子どもによる子どものための国際協力。若者のファシリテーターを育て、大人の支え手を増やしたい NPO法人 フリー・ザ・チルドレン・ジャパン

世界で貧困に苦しむ子どものために12歳の少年が設立し、今や世界45ヵ国で230万人以上の子どもたちが活動する「フリー・ザ・チルドレン」。その日本支部は、深刻な“大人の支え手不足”に陥っていた。Panasonic NPOサポート ファンドの助成を受けて、どのように解消したのか、その道筋を聞いた。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第287号(2016年5月15日発行)掲載内容を再編集しました]

創設者はカナダの12歳の少年
子どもたちが寄付を集め海外支援

「貧困や児童労働から子どもを解放すること」「子どもは無力だという考えから子どもを解放すること」をミッションとして掲げ、先進国の子どもたちが国際協力活動に取り組む「フリー・ザ・チルドレン」の日本支部にあたるのが「フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(以下、FTCJ)」だ。

フリー・ザ・チルドレン・ジャパン 代表理事 中島早苗さん

フリー・ザ・チルドレン・ジャパン
代表理事 中島早苗さん

活動の始まりは1995年までさかのぼる。「創設者のカナダ人、クレイグ・キールバーガーさんは当時12歳。パキスタンの同い年の少年が、貧困のため4歳から10歳までじゅうたん工場で働かされていたところをNGOに保護され、世界中でスピーチをして帰国した直後に何者かに射殺されたという新聞記事を目にしました。その記事にショックを受けたクレイグ少年は『子どもの問題に自分たち子どもが取り組むべきだ』とクラスメートに呼びかけ、フリー・ザ・チルドレンを立ち上げたのです。」と代表理事の中島早苗さんは話す。

1997年、米国のNGOでインターンをしていた中島さんはこの一連の出来事を雑誌で知った。「帰国後、カナダの本部に『日本支部をつくりたい』と連絡し、1999年にFTCJを立ち上げました。」

初めは、なかなか子どもメンバーが集まらなかったが、性産業で虐待を受けた15歳のフィリピンの少女をスピーカーとして日本に招いたところ、同年代の高校生たちが共感し、次々とメンバーになった。現在は、子どもたちが集めた寄付でフィリピン、インド、ケニア、シエラレオネなど10ヵ国で学校の建設、生活に必要な水源の確保や医療の提供、収入確保の支援、災害時の緊急支援を行っている。同時に、国内の子どもたちに対しては、「子どもや若者は助けられるだけの存在ではなく、自身が変化を起こす担い手である。」として、アクションを起こすためのワークショップやキャンプ、スタディーツアーを開催している。

子どもが企画し、主役になる活動
課題は資金調達を支える事務局体制

「たとえば、パンづくりが得意な四国に住む小学校3年生の男の子は、バレンタインデーにベーカリーを間借りし、パンを焼いて販売。児童労働について書かれた絵本の読み聞かせもセットにしてイベントを開催したところ大好評で、売り上げはインドの学校や井戸をつくる費用に役立てられています。」
このように子どもたちが主役になるFTCJの活動は、小学生から高校生までの「子どもメンバー」のなかから立候補した「子ども代表委員」が総会に参加して、決めていく。また、18歳を過ぎても「ユースメンバー」として登録でき、メンバー登録はいずれも無料だ。活動を裏で支える事務局は東京・世田谷区にあり、専従スタッフ4人とアルバイトスタッフや大勢のボランティアによって運営されている。

「大人からの会費やメンバーからの寄付で活動が支えられていますが、海外の子どもに直接役立ててほしいという声が多く、事務局を支える資金集めが悩みでした。スタッフは少人数のため目先の業務に追われ、組織運営を俯瞰できないことも組織の課題でした。」
そこで10年に、NPOサポート ファンドの助成プログラムに応募。翌11年から、3年にわたる取り組みが始まった。「私たちは資金調達のために、すぐにお金に結びつくチラシやホームページをつくることが先決だと思っていたのです。」
ところが、外部コンサルタントの協力を得て「組織診断」を実施したところ、最初のワークショップで導き出された組織の優先課題はまず「事務局の業務体制の見直し」をした後、「支援メニューの立案・展開」「広報ツールの改善」というものでした。そしてこの結果をもとに助成2年目から組織基盤強化に取り組んだ。

「スタッフの業務や体制の見直しを含め、仕事への客観的な評価をしたり、普段できない踏み込んだ議論をする合宿研修も実施。さらに、インターンやボランティアの方に事務作業の一部を担ってもらえるようマニュアルもつくりました。」

大人向けに広報ツールを充実させサポーターは3倍に

たとえば、インターン向けの『働き方ガイドブック』には、電話の受け答えからパソコン上のデータ保存法、日報の書き方までの手順が書かれている。「何度も口頭で伝えていたことを1冊にまとめたことで、受け入れ初日にオリエンテーションをするだけで済むようになり、仕事の質が向上しました。」
さらに、「大人へのアプローチをほとんどしてこなかったことにも気づいた。」と中島さんは言う。「子ども向けのチラシしかなかったので、学校、企業、保護者などの大人を対象としたパンフレットをつくり、学校の先生や保護者に向けたメールマガジンを発行。子どもメンバーのOB・OGにも郵便やフェイスブックで連絡を取り、OB・OG会への参加を呼びかけました。」

助成3年目には、「活動内容と参加メニュー」がひと目でわかるように整理されたホームページを制作。自動的にウェブ上でメンバー登録できる仕組みも整えた。
「対象別に整理された資料とホームページができたことで、学校に生徒さん向けのイベント案内を送ったり、企業に協賛を呼びかけたりすることに積極的になれました。業務が効率化され、残業をしなくて済むようになったことで仕事の質が上がりました。」

その成果は数字にも表れている。助成前、約300人だった子ども・ユースメンバーは2015年度には約1300人に増え、約30人だったサポーターは100人を超えた。これに伴い、海外の年間受益者も約3000人から約8000人まで数字を伸ばした。個人や団体からの寄付も増え、助成前は3人だったスタッフ数も今春4人に増やすことができた。昨年、助成前と現在とで組織がどのように変化をしたかを振り返ったところ、事務局の業務体制の見直しや、広報・情報発信に取り組んだ結果、組織の「人材」や「マネジメント能力」の項目で大きな変化があらわれており、それが現在の活動の発展につながっていると実感している。

組織の基盤が強化されたことで、新たな目標も見えてきた。
「カナダの本部では、スタッフが毎日どこかの学校で社会問題を学ぶきっかけづくりを行っている。その結果が国の政治を動かす動きにもつながっています。さまざまな問題に意見を言い、自分が社会を変えていけるのだという意識をもつ若者が日本でも増えてほしい。今後は、より多くのファシリテーターを育成し『社会を変えられるのは大人だけじゃない』ことを子どもたちに伝えていきたいですね。」

[団体プロフィール]認定NPO法人 フリー・ザ・チルドレン・ジャパン
1995年、カナダにて創設された「フリー・ザ・チルドレン」の日本支部。99年の設立以来、途上国の子どもたちを貧困や搾取から解放する「海外自立支援事業」、日本の子どもたちが社会問題を解決するために行動を起こすことを支援する「国内事業」を活動の柱とする。

寄付などの振込先:郵便振替口座 00120-5-161532口座名 フリー・ザ・チルドレン・ジャパン

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