タッチディスプレイ用 静電容量方式ノブ
確実な操作感/デザイン性を両立させる
「Magic Knob」の新たなインターフェイス

小さなリング状のデバイスが、タッチディスプレイに新たな価値を創る――。パナソニック インダストリーが開発した「Magic Knob(型式:MPMK)」は、タッチディスプレイの上に貼り付けて、自由にレイアウトができる車載用の静電容量方式ノブです。1個のノブで「回転」「プッシュ」の機能を満たし、なおかつ従来では困難だった“グローブ操作”と“自由レイアウト”を可能にする、新発想の静電容量方式ノブです。
ラインアップは2種で、一般タイプは中央の円形部分もディスプレイとして生かせる外径52mm、もう一つは外径26mmで画面表示を妨げない小型タイプ。構想段階から開発を担当してきたエンジニアは「お客様にとっての使いやすさを一番に考える、それが私たちのポリシーです。お客様との共創の中で、想像しえなかった使い方にも展開しています」と限りない可能性を語ります。
大型ディスプレイで際立つ、メカニカル部品の価値
EVをはじめとして進化を続ける車、カーメーカー各社は内装デザインで差別化を図るため、大型の静電容量方式タッチディスプレイを多数採用しています。同時に課題となっているのが、大画面ディスプレイを置くスペースで、空調などのメカニカルスイッチは押し出されるように、配置の制約を受けています。スイッチ操作そのものは画面のタッチで代用できるものの、操作のフィードバックが得られず従来の感覚的に切り替える操作性が失われます。


例えば、ダイヤルを回して指先で手応えを感じながら0.5℃や1℃を操作する温度調整。あるいは、ダイヤルでセレクトした後に「決定」とするプッシュ操作はメカニカルスイッチならでは。ドライバーは前方を見たまま手元で操作ができる物理スイッチには捨てがたい価値があります。これをデザイン性と引き換えに諦めるのではなく、ディスプレイをシームレスになった操作盤と位置づけ、これまでにないレイアウトを可能にするのがMagic Knobの特長です。
車載用ディスプレイの検討において、Magic Knobの一番のメリットはタッチセンサやカバーレンズ上に穴をあけなくてよいこと。MPMKタイプは静電容量方式のタッチセンサを使った汎用のディスプレイ上に貼るだけで、メカニカルスイッチを連動させることができます。センサ側に専用パターンを用意する必要もなく、標準パターンのままどこにでも置けるMagic Knobは、ディスプレイ設計の幅を大きく広げます。
[技術解説]
グローブのまま操作できる、Magic Knobの独自設計
Magic Knob(MPMK)は、既存品では難しいとされてきた「グローブを着けたままのタッチディスプレイ操作」を可能にします。
設計上のポイントは、電極を固定した駆動方式。一般的な同様のノブは電極がダイヤルと共に回転するのに対して、MPMKは電極を固定しています。手をGND(基準電位)として使う静電容量方式とは別物と言っていい、導電性にとらわれない仕組み。指先に加工が施された手袋を使ったり、グローブを外して操作したりする、そんなドライバーの面倒を独自設計によって消し去りました。

電極を部品内部で完結させる効果は、外装ノブにも及びます。導電性を考慮する必要がないので、木製やプラスチック製の外装も使用可能。素材に制限がなくなり、ディスプレイを含めた高いデザイン性に新たな選択肢が生まれます。また、接着部が広いのでノブの小径化が可能となっています。はがれにくい安定したノブ、かつ電極とタッチセンサに隙間のない構造で、異物をかみ込むリスクも軽減。独自設計による高信頼性が特長となっています。
ロータリー&プッシュの「操作感」を突き詰める
リング状のどこを押しても同じ操作感触を得られる、心地よいプッシュの新感覚は、パナソニック インダストリーが車載分野で培ってきた「操作感触」の技術によるもの。50年以上の実績を誇るロータリーエンコーダー(回転式)、タクタイルスイッチ(プッシュ式)の開発実績により、指先の感覚を数値化し独自技術として生かされています。

この操作感触はカスタマイズが可能で、カチカチと小気味よい手応え、または切れ目のないボリューム調整のような操作感のいずれにも対応し、そのレベルもお客様のご要望に添ってコントロールができます。長年培ってきた感触技術のベースであるバネとカム設計*の複合的な調整でお客様ごとに好みの操作感を落とし込みます。
*カム設計:回転操作によってバネがカム山を乗り越えるとき、目的の「クリック感触」を発生させるカム部品の設計
パナソニック インダストリーは、2025年5月21日~23日にパシフィコ横浜で開かれた「人とくるまのテクノロジー展」にMagic Knobを展示し、車載品メーカーや関係者に広くその魅力を訴求しました。8万人近い来場者を記録した同展では、多くのOEM事業者がブースを訪れ、高い関心が寄せられました。展示ブースに掲げられた「課題解決デバイス」のキャッチコピーどおり、Magic Knobは車載ディスプレイを手掛けるメーカー、その先の一人ひとりのドライバーと向き合っています。

開発担当者に、Magic Knobの強みと今後の展望を聞きました。
お客様とともに前進する、提案型のビジネスモデル
竹内 正次[メカトロニクス事業部 ファインコンポーネントビジネスユニット]
Q_お客様からの反響をどう感じていますか?
最も高い評価をいただいているのは、グローブを着けたままの操作で、特に寒冷地をターゲットとする車両でその特長が注目されています。また、ピックアップトラックが支持される北米では、作業をした後にグローブを着けたまま使えるスイッチとして高いニーズがあります。構造上、電極とパネルに隙間がなく、砂やごみを巻き込みにくいメリットもあるので、そうした作業後の操作にも適しています。

Q_車両の開発段階では、どんな効果があるのでしょうか?
外装ノブの素材が自由に選べることは、車両開発のポイントとなる「高級感」につながります。また、操作感の設定も車両のコンセプト統一に寄与します。物理スイッチ全ての操作感触をそろえることで「車内の体験」をつくる――、車づくりはそこまで追求しているのです。もう一つ、お客様のお話で驚かされたのが、Magic Knobをオプション設定とする考え方です。穴をあけずに置けるので、Magic Knobあり/なしの仕様が同じディスプレイで設計できます。「ハンドルの左右によって、位置を動かせる」は考えていたセールスポイントでしたが、オプション設定は“目からウロコ”でした。

Q_MPMKの製品化で、一番のターニングポイントは?
タッチICメーカーとの協業が大きかったと思います。私たちにはデバイスメーカーのノウハウがあり、タッチパネルを専門とする社内の部門と共同開発をしてきましたが、そこに信号処理のスペシャリストが加わったのです。人の指先は1g~2gの違いを感知するといわれるほど繊細です。その感触をタッチセンサに伝えていくという、これまでにない実装。三者のコラボレーションで、ノブの在り方に最適解を導き、プロトタイプの実物をお客様にご覧いただきながら、提案ができるようになりました。
Q_今後に向けた展望、開発者としての思いを教えてください。
Magic Knobは新規デバイスだけに、特長を理解いただく提案の手法がポイントです。まずは展示会などで存在を知っていただき、逆に市場のニーズをお聞かせいただきながら次の開発へとつなげています。こうしたビジネスモデルは私にとって初めての経験です。Magic Knobは汎用のタッチディスプレイに貼り付けられるので、さらに別の用途が生まれる可能性も秘めています。MPMKシリーズは、まさにこれからお客様の元で生かされ、育まれていく段階。私自身も今後の広がりを楽しみにしています。