導電性高分子コンデンサ

次世代USB Type-Cに対応のPOSCAP
ノートPCの高速充電に貢献

次世代USB Type-Cに対応した、新たな導電性高分子コンデンサ「POSCAP」

ノートPCやタブレットなど、情報通信機器で普及が進むUSB Type-Cコネクタは、新規格「USB-PD 3.1」により高出力給電化が進んでいます。以前は最大100W(20V/5A)だった供給電力は、最大240W(48V/5A)までアップ。パナソニック インダストリーは、このUSB-PD 3.1に準拠した新たなコンデンサ「POSCAP」を開発し、50Vと63Vモデルを製品化しました。

超高耐圧で大容量を誇る「導電性高分子タンタル固体電解コンデンサ(POSCAP)」の新モデルは、高さ3mmの低背化を実現しました。これまで、USB-PD 3.1対応の同種のコンデンサで業界標準とされてきた高さ4mmから大幅なサイズダウンに成功。わずかなスペースも無駄にできない機器設計に効果をもたらし、容積の圧縮による使用部材の削減で、環境負荷の低減にも貢献します。高まるUSB Type-Cのニーズ、世のトレンドに独自の技術力を掛け合わせたPOSCAPの新製品は、2025年12月上旬に量産を開始します。

大事なデータを守り抜く“小さな巨人”

コンデンサは、電気をためて必要なときに放電する電子部品で、その切り替えによって、電圧の安定化やノイズ除去、電源バックアップなどを担っています。材料や構造によってさまざまな種類がありますが、導電性高分子コンデンサはプラス・マイナスの極性を持ち、電極間をつなぐ電解質に電気を通す特殊なプラスチックを採用します。優れた低ESR(低抵抗)・高周波特性と、温度・電圧変化の影響を受けにくい安定性を強みとしています。

当社はプラス極にタンタル材料を用いるPOSCAPを開発し、1997年から量産を開始しました。以来、今日までお客様に支持されてきた要因は「高い信頼性」です。長年にわたってタンタル金属の特性を見極め、その中心部を覆う最適な皮膜のあり方、外装樹脂の設計まで一連の技術力を蓄積してきました。高温でハードな環境下でも、POSCAPは「小さな巨人」として安定して役目を果たします。その最先端、2025年にリリースされたUSB-PD 3.1対応モデルでは、高出力に対応するために独自の「粉末成型技術」「皮膜形成技術」が発揮されています。


[技術解説]
欠陥を防ぐ、均一な誘電体酸化皮膜

USB-PD 3.1対応の大容量化に欠かせないのが、電極材料に用いる大容量のタンタル粉末です。粒子サイズが小さく、成形加工が難しい材料であることから、高耐圧化のために電極表面に形成する均一な誘電体皮膜が製品の品質を左右します。大容量タンタル粉末材料を用いた電極は電極内の細孔が非常に小さいため、誘電体酸化皮膜に欠陥ができやすい課題があります。図の左に示したような、極めて小さな欠陥であっても、これが電力の漏れを起こしたり、ショートを起こしたりする場合もあります。

こうした課題をクリアしたのが、大容量タンタル粉末を均一な密度で成形する独自技術の確立です。従来抑制されてきた欠陥をさらに低減し、均一に皮膜形成する成膜プロセスの最適化を図りました。その精度向上は漏れ電力を極限まで排し、中身が安定している分だけ、外装樹脂も薄くできるという相乗効果を生んでいます。これによって、USB Type-Cの高出力給電に求められる超高耐圧と大容量という条件をかなえながら、業界最低背の3mm品の開発に成功しました。

揺るぎない目標、低背3mmへの挑戦

パナソニック インダストリーのコンデンサには、POSCAPのほかに、アルミ材料を用いた「SP-Cap」「OS-CON」「アルミハイブリッド」などのラインアップがあります。電圧や容量など、求められる特性に応じて当社は最適な製品を提案しています。POSCAPは、これまで産業用のSSD(データ記憶ストレージ)向けで圧倒的なグローバルシェアを獲得。小型と大容量を両立させながら、高い信頼性によってさまざまな機器に用いられて、その機能を支えてきました。

製品力はお客様との信頼関係を強め、開発に携わるメンバーは次代のスペックについて、直接の要望をいただく場面も多いと言います。そうした期待に応えると同時に、開発チームは自らの目標設定を行ってきました。蓄積してきたデータを生かして次代のニーズを探索する、自ら描き出す開発の軸――。それが、低背の3mmでした。開発責任者は「ここだけはブレなかった。3mmを達成する、その目標は要素技術の開発から製品化まで一貫していた」と振り返ります。今後はディスプレイなどの大型機器などの用途拡大も期待されるUSB Type-Cコネクタ。その電力を受け止めるPOSCAPにも、同様の期待感が高まっています。

デバイスソリューション事業部の開発責任者と開発リーダーに、
新モデルの開発プロセスと今後の展望を聞きました。

 

歴史あるPOSCAP、新たな一歩へ

廣田 兄[開発責任者]/山中 裕貴[開発リーダー]

写真:開発責任者の廣田兄

Q_新しい高電圧帯へのチャレンジ、どう臨んでいったのでしょうか。
廣田:USB-PD 3.1規格が決まったのは2021年、これからの伸びを認識して開発に着手しました。コンデンサにおいて、大容量化と高耐圧化はトレードオフの関係にあります。これを両立させるために、タンタル粉末の新規開発とともに、誘電体の酸化皮膜の形成を進めてきました。この組み合わせで実現の道筋は見えていたものの、要素技術の追究に一定の時間を要しました。

山中:高出力給電は私たちにとって未知の領域です。これまでに蓄積されたデータを最大限に生かしながら、タンタル粉末、酸化皮膜ともに新しい材料を用い、予測値を立てつついろいろなパラメータを振って試していく。そこからできるだけスピーディーに最適条件を出していくという開発の流れでした。目に見えない化学、そのコントロールはとても難しいし、半面でそこが面白さとやりがいでもあります。

Q_今回の開発を支えた周囲との連携について教えてください。
廣田:コンデンサ事業に携わる方のたくさんのサポートがありました。以前に開発を担当していたSP-Capの部署に、課題についての見解も求めながら進めました。私が考える開発プロセスの要所は「あるべき姿が明確になっているか」。ポイントさえ見えれば、あとは実験と解析からデータが語ってくれるものです。そうは言いながらも、量産化に至るまでのこの1年は早くお客様に届けたいとの思いで、特にスピード感を意識しました。

山中:まさにギアを上げた感覚です。構想の段階からUSB-PD 3.1対応に向けて製造や生産技術、品質保証のメンバーとともに臨んできましたが、開発リーダーとしてより日程管理の徹底を心掛けました。全てがうまくはいかないので、どこかで無理が生じたら、その声を早く聞かせてもらう方がいい。そのカバーが大事です。何でも聞きやすいし、聞けば誰もが応えてくれる、ここは私たちの拠点のいいところ。部署の壁をつくらない風土にも助けられました。

写真:開発リーダーの山中裕貴

Q_今後に向けての思いを聞かせてください。
山中:先日、お客様に直接プレゼンテーションをする機会に恵まれました。そこで感じたのは信頼性への注目度です。POSCAPの事業で築いてきた信頼感と期待感――、そうしたお客様の目線を肌で受け止めました。事業の歴史がそうさせるのだと思いますし、とてもうれしく感じました。これからも「信頼性」を第一に開発を続けていきます。

廣田:より多くのお客様に使っていただくために、スペックとともに生産性やコストは非常に重要です。もちろん、設計の初期段階から私たちはそこを追求してきましたし、量産化に入ってからもさらなる改善が続いていきます。USB-PD 3.1対応という意味では、まずはスタート地点に立ったと意識しています。ここを足掛かりに、さらなるラインアップの拡充を目指します。