感圧センシングデバイス

導電性マイクロピラーによる多機能化、
モバイル機器やロボティクスに幅広い用途

感圧センシングデバイスを取り付けたロボットハンドのデモンストレーション

指先が触れるわずかな圧力、そこに生じる静電変化を精緻に捉える――。パナソニック インダストリーは、独自技術で成形する超微細形状の導電性ゴムを用いたマイクロピラーにより、接触負荷の小さい領域でも、確かな検知能力を発揮する「感圧センシングデバイス」を開発しました。このマイクロピラーと絶縁層、金属を積層したセンサは、静電容量の変化をICによって検出する仕組み。新技術「APEXSENSETM」(エイペックスセンス)を冠した製品は、「ピラーセンサ」「アレイセンサ」と二つの用途を柱に据えています。

ピラーセンサは、スイッチと感圧センシングデバイスを統合した製品。主な操作は①スイッチのON/OFF②タッチ・プッシュ③スワイプで、従来はそれぞれを感知するデバイスが必要でしたが、これをワンパッケージで実現します。製品イメージは2.0mm×5.0mm×0.8mmの薄型。省スペースが必須のモバイル機器、スマートフォンやARグラスなどの設計に新しい余白を生み出します。もう一つの用途、アレイセンサは超微細形状の導電性ゴムが狭ピッチで並ぶ構造で、ロボットハンドの指先に搭載することを想定したセンサなど次代のアプリへの応用を見込んでいます。

指先の操作、伝わる感触をくまなくキャッチ

感圧センシングデバイスの素子は、シャープペンシルの芯ほどのサイズ。これを断面図で見ると、絶縁体を上下から導電体で挟む3層構造となっています。上側は導電ゴムで山の形状。0.1mmほどの山の先端は下向きにレイアウトされ、絶縁体に接しています。ここに力が加わると、山が押しつぶされて接点の面積が変化する仕組み。加圧を山が受け止めて、低荷重のレンジ(0.5kPa)から、直線的に右肩上がりの出力ラインを描きます。

パッドに触れた圧力を画面表示する、感圧センシングデバイスの展示。画面上で3D表示され、触れた部分が隆起する

既存の感圧センサには、「並行平板式」「抵抗式」などがあります。前者は低~高荷重に向けてS字形の出力ラインとなって中間の変化が鈍い特性で、後者は低荷重から一気に立ち上がるので感圧の始まる「ゼロ点」が読み取りにくいという弱点があります。これらと比べ、マイクロピラー技術を使った感圧センシングデバイスは人が操作する荷重レンジにおいて検知能力が安定しており、かつ静電容量方式のため、データを受け取る静電IC側でキャリブレーションがしやすい優位性があります。

もう一つ、導電性マイクロピラーの特長は、押しつぶされた際に適度なストロークがある上に、その調整ができること。既存製品のライトタッチスイッチとも相性が良く、その組み合わせによってさまざまな製品イメージが膨らみます。「可動接点(金属板をドーム状にしたもの)」でキレのよい感触をつくりだすライトタッチスイッチや「ゴムプッシュ板」で心地よい感触をつくりだす車載用スイッチなどの製造で、パナソニック インダストリーは長年の実績があります。事業の一翼を担ってきた津山拠点(岡山県)による開発、積み重ねた歴史の最先端に位置するのが、新たな感圧センシングデバイスです。

⦿ピラーセンサ(操作系の用途)

イヤフォン/スマートフォン/スマートグラスなどの小型モバイル機器

ピラーセンサの製品イメージ(クリック付き)の画像。サイズは5.0mm×2.0mm×高さ0.8mm

[技術解説]
マイクロピラー成形技術で、微小な山を連ねる

ずらりと並んだ導電性ゴムの山、その“標高”はわずか50~200μmです。金型による精緻な素子の配列は、設計から金型づくり、製造工程までをフルに手掛けるパナソニック インダストリーならではの技術です。材料と生産プロセスをかけあわせ、自らの手で製品特性をコントロールしています。

微小な導電性ゴムが、縦横に多数並ぶ画像

導電性ゴムには、耐久性とともに加圧で形が変わる適度な柔らかさ、導電性などが求められます。使いこなすのが非常に難しい材料である導電性ゴムは、その特性を考慮しながら生産プロセスを改善し、お客様の価値を最大化するため、素材の性能を引き出すデバイス設計と高度なモノづくりが実践されています。

デバイスの性能を突き詰め、複数配列で「人の手」に迫る

圧力を検知するセンサとスイッチ機能が一つにまとまるピラーセンサは、ワイヤレスイヤホンやスマートフォンなどの小型機器の開発で、部品点数の削減、構成の簡素化につながります。すでにお客様から引き合いが寄せられ、検討をいただいている段階です。これらが実を結べば、2年後、3年後に新商品を手にするエンドユーザーの元で、このデバイスが役立つことになります。

指先に感圧センシングデバイスが付いたロボットハンドのデモ。ボールに触れた部分の圧力が画面に投影される

もう一つの用途として想定されるのが、ロボットハンドへの実装です。例えば、一つの指に複数のデバイスを載せるアレイセンサの場合、狭ピッチによる高分解能が効果を発揮。小型で高性能なセンサをたくさん搭載できれば、より細かなセンシングが可能になります。担当エンジニアは「人の指に代わるセンサを実現することで、すごく小さなネジを使った製造工程など、ロボットの作業範囲も大きく広がるはず」と展望を語ります。

さらに人の指を目指したセンシングに対応するためにはそれに使用されるセンサは複数個使用されることになります。たくさんのセンサを併用すれば、検知のバラつきが課題となりセンサのさらなるスペック向上が一つのカギとなります。開発から量産へ、いかに精緻なモノづくりを徹底できるか。性能アップに向けた開発が続いています。

⦿アレイセンサ(検知系の用途)

ロボットハンドやコミュニケーションロボットなどの指先検知

アレイセンサの製品イメージの画像。センサ部とフレキシブル基板を組み合わせた構成

開発担当者に、感圧センシングデバイスの強みと今後の展望を聞きました。

 

設計とモノづくりで挑む「コア技術の進化」

長瀬 正雄[メカトロニクス事業部 ファインコンポーネントビジネスユニット]

Q_独自性の高いデバイスをつくるために、何を意識していますか?
まず、世のデバイスとは、各社が技術の粋を競った中から採用されていて、どれも性能とコストの両面で非常に優秀だという前提があります。ですから、新たに提案をする際にはお客様の立場になって、どのような価値があるのか、従来よりも何が良いのか、どこに優位性があるのかを数値化し、言語化する。その意識で臨んでいます。

Q_特長をさらに伸ばす要素として、どんなことが挙げられるでしょうか?
3層の中間にある絶縁体のフィルム、下層の導電体も改良を続けています。いろいろなメーカーが静電容量方式のセンサを取り扱っていますが、その全てを自ら開発するのは、私たちだけかもしれません。現在はさまざまな材料を組み合わせたりプロセスを変更・改良して誘電率をアップさせる開発を進めています。

私たちは、スマートフォンのサイドボタンに代表されるライトタッチスイッチや車載スイッチで培った実績から、通信機器やロボット分野のリーディングカンパニーをはじめとするお客様に、直接提案できるチャンスがあります。これは何にも代えがたい強み。お客様からお困りごとの相談をいただき、コア技術の進化で応えていくことで、私たちの製品価値は最終ユーザーにまで届くと思っています。

写真:長瀬正雄

Q_お客様への貢献について、注力している部分とは?
現在、力を入れているのは、お客様ごとの感度/感圧レンジのカスタマイズです。私たちは、マイクロピラーの形やレイアウトによって、お客様からのご要望に対してピラーセンサやアレイセンサの最適なソリューションを提案できます。

私がいつも意識するのは「市場の動向とニーズの最大公約数」です。その意味で、各社へのカスタマイズを視野に入れつつ、半面で「どこまでを共通仕様にできるか」を見極めています。共通仕様はお客様へのコストメリットとなり、生産性にも寄与するので、この境界が重要なのです。また、センサとつながる部品、静電IC側の進化とそのスピードにも目を見張るものがあります。こうした動きを注視しながら、これからも時代的な背景をしっかりと捉えたセンサを追求していきます。