働き方改革
医療業界が抱える課題とは?
解決への取り組みや2024年問題対策についても解説
公開日:2024 / 5 / 14
人手不足による業務負担増加やデジタル化の遅れ、医療費の高騰など医療業界が抱える課題は多様です。今後、これまで以上に少子高齢化が進む日本において、少しでも早く課題を解決しなければ、十分な医療サービスの提供もできなくなってしまうでしょう。
今回は医療業界が抱える課題について、具体的な内容や解決への取り組み方についてお伝えします。また、医療業界にとっての2024年問題についても解説しますので、医療現場で労務管理を担当される方は、ぜひ参考にしてください。
医療業界が抱える課題とは
さまざまな課題を抱える医療業界、その中でも主なものとして挙げられるのは次の点です。
医師・看護師不足
2023年11月に厚生労働省が発表した「労働経済動向調査」によると、正社員など労働者の過不足状況で医療・福祉は不足感が62%と全産業の中で最も高い数字です。また、不足から過剰を引いた数値でも建設、運輸に次いで3番目に高い数字となっています。この数字は、同年8月は65%、同年5月は58%で、慢性的に不足感があるといえるでしょう。
また、看護師単体での不足も医療業界の大きな課題です。2023年1月に厚生労働省が発表した「一般職業紹介状況」で2022年全産業の有効求人倍率は1.28でした。これに対し看護師・准看護師の有効求人倍率は、2022年5月で1.91、12月2.62、2023年3月2.22となっています。新型コロナウイルス感染症の発生以降、1倍台になる時期はあったものの、現在では、2倍台で推移しているのが現状です。
デジタル化の遅れ
デジタル化の遅れも医療業界における大きな課題となっています。厚生労働省の「電子カルテシステムなどの普及状況の推移」によると、2020年時点で電子カルテシステムを導入している一般病院の割合は、57.2%(一般診療所は49.9%)です。
病床別で見ると、400床以上では91.2%とかなり高い導入率である一方、200床未満では48.8%と半数以下になっています。
また、医師が看護師や薬剤師に対して指示を行う際に活用するオーダリングシステム※を導入している一般病院の割合は62.0%ですが、400床以上では93.1%なのに対し200床未満では53.3%とかなりの差があります。
これらの結果から、特に小中規模の病院においてデジタル化の遅れが目立っているといえるでしょう。
※ 医師がパソコン上で看護師や薬剤師などへ指示を出せるシステム
医療費の高騰
高齢化社会において、日本の医療費の高騰は長年指摘され続けてきた課題です。厚生労働省が公表している「令和4年度医療費の動向」では、令和4年度の概算医療費は46兆円、前年度より1.8兆円、伸び率で4.0%の増加となっています。少子高齢化が進むなか医療費高騰の課題が解決できなければ、健康保険料や窓口負担割合のさらなる引き上げにつながります。そしていずれは、国民皆保険制度が崩壊し、多くの国民が必要なときに必要な医療サービスの提供を受けられなくなる可能性すらあるでしょう。
医療の2024年問題
2024年4月から働き方改革関連法により、医療業界にも時間外労働の上限規制が適用されることで、これまでの医療提供体制を見直さなくてはならなくなります。これが医療業界の2024年問題です。
時間外労働の上限規制は2019年4月に施行されていますが、医療や建設、物流など一部の業界は5年間の猶予期間が与えられていました。しかし、それが2024年3月までで、4月からは医療業界にも適用されるようになります。
具体的には診療に従事する医師は、以下のいずれかの水準が適用されます。
水準 | 長時間労働が必要な理由 | 年の上限時間 |
---|---|---|
A水準 | 臨時的に長時間労働が必要な場合の原則的な水準 | 960時間 |
連携B水準 | 地域医療の確保のため、派遣先の労働時間を通算すると長時間労働となるため | 1,860時間 |
B水準 | 地域医療の確保のため | 1,860時間 |
C-1水準 | 臨床研修・専攻医の研修のため | 1,860時間 |
C-2水準 | 高度な技能の修得のため | 1,860時間 |
※ 複数の医療機関で勤務する場合は、労働時間を通算して計算する
医療の課題に対する取り組み
医療業界が抱える課題の解決に向け、どのような取り組みが必要でしょうか。すでに進められている取り組み、求められる取り組みなどを紹介します。
人材不足解決に向けた取り組み
適切な医療サービスの提供は全国民に関係してくる問題であるため、医療業界の人材不足解決に向けた取り組みは現在国が主導し、教育機関や地方自治体が進めています。医師に関しては、大学の医学部を中心に医師養成課程における臨床研修や専門研修の徹底、各都道府県と大学との連携による地域枠の設定、キャリア形成プログラムの策定などで、医師の確保をめざしています。また、看護師に関しては、「新規養成」「復職支援」「定着促進」を三本柱として、学生や社会人、元看護師などの取り込み強化が進行中です。
ただし人材不足は深刻で、国や自治体にのみに任せていては、解決は困難です。医療機関においても、デジタル化による業務効率化や女性医師の出産・子育て支援、タスク・シフティング(医師の業務の中で医師以外でも可能な業務を医師以外の医療従事者へ移管すること)などの対応が求められます。
デジタル化の遅れ解消に向けた取り組み
デジタル化、DXへの取り組みは、あらゆる業界に求められています。医療業界についても同様で、他の先進国に後れをとっている医療DXを進めるべく、政府は「医療DX令和ビジョン2030」を提言しました。ここでは、「全国医療情報プラットフォームの構築」「電子カルテ情報の標準化(全医療機関への普及)」「診療報酬改定DX」に取り組むことを明言しています。
患者本人、医療機関・薬局、社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険中央会などが患者情報を共有できるプラットフォームの構築、電子カルテ普及率100%(2030年まで)、共通算定モジュール(患者の窓口負担金計算を行うための全国統一の共通的な電子計算プログラム)の導入や診療報酬改定施行日の調整などによる診療報酬およびその改定にかかる業務の効率化などをめざします。
政府の後押しもあり、医療機関ではデジタル化を進めやすい環境にあるといえます。デジタル化の遅れを解消するには、他の業界と同じく、まずは経営者・スタッフともデジタル化の重要性を理解することが大切です。その上で現在の現場の課題を明確にし、電子カルテやオーダリングシステム、医事会計システム(レセコン)など必要なツールを絞っていきます。予算の問題がある場合は補助金を積極的に活用するといいでしょう。
ただし、デジタル化とはデジタルツールを導入することではなく、活用することです。医師や看護師、薬剤師、受付スタッフなど医療現場で働く人に対して使い方の研修を行うことも必要になります。
医療費高騰に対する取り組み
医療費高騰の課題は社会全体の大きな問題であり、国では「医療費適正化計画」を立て、2008年4月よりあらゆる施策を試みています。計画には「特定健康診査」「特定保健指導」の実施率向上への働きかけ、後発医薬品の使用促進、生活習慣病の重症化予防への働きかけなど、さまざまな取り組みが盛り込まれてきました。計画は4年ごとに区切られ、現在は第4期医療費適正化計画(2024~2029年度)が実行されています。
医療費高騰の問題は国の政策に頼るところが大きくなりますが、医療機関でも医療適正化計画の趣旨を理解し、積極的に協力していくことが求められます。医師も看護師も薬剤師も、患者一人ひとりとコミュニケーションをしっかり図り、過剰な検査や薬の処方などを防ぐ意識も必要でしょう。
なお、前出のデジタル化・DXの推進は業務効率化を実現します。それにより人件費を抑え、医療費の抑制につながることも期待できます。
医療の2024年問題を解決するための取り組み
医療の2024年問題解決には、現状の把握が欠かせません。厚生労働省が発行している「医師の働き方改革2024年4月までの手続きガイド」などを参考に、現時点で上限規制を超えている医師・看護師がいないかを確認します。
その上で、次のような取り組みが考えられます。
- 勤怠管理システムの導入
2024年問題に対応するには、適切な労働時間の管理が欠かせません。ただし、手動で管理するのは手間がかかり過ぎる上、ミスも起こりやすくなります。そこで、勤怠管理システムを導入することで効率化とミスの軽減を実現させましょう。 - タスク・シフティングの活用
すでに紹介しましたが、医師が看護師や薬剤師、臨床検査技師など他の医療従事者に業務を移譲するタスク・シフティングも2024年問題対策として有効です。ほかの職種でもできる業務を適切に振り分けることで、業務の効率化と業務負担軽減を図ります。 - 長時間労働抑止対策の実施
なお、時間外労働の上限規制が適用されるため、長時間労働抑止対策は必須です。例えば、パソコンを使う業務を行う医療従事者であれば、長時間労働抑止システムを導入することで、月の残業時間を超えた場合、自動的にパソコンがシャットダウンします。勤怠管理同様、長時間労働抑止についてもシステムの活用により、効率的な管理が可能です。
不当な長時間労働は法に抵触し、罰則が科せられる恐れがあります。詳しくは、次の記事をご覧ください。
医療業界の課題解決にはシステムの活用がポイント
現在、医療業界は人手不足やデジタル化の遅れを、1人あたりの多くの業務量でカバーしている状況といえます。そういった課題に加え、医療業界にも時間外労働の上限規制が適用される「2024年問題」もあります。それらの課題解決のため、早急な対策が欠かせません。
多くの課題を解決する有効な対策として、デジタル化推進が挙げられます。
具体的には電子カルテやオーダリングシステム、医事会計システムの導入などが考えられるでしょう。2024年問題の解決策として、勤怠管理システムや長時間労働抑止システムの活用も選択肢に入ってきます。
パナソニック ソリューションテクノロジーが提供する長時間労働抑止システム「Chronowis」は、パソコンの利用制限と稼働ログの取得により、長時間労働の抑止を支援するツールです。医療現場でパソコンを使う業務を行う医療従事者の長時間労働抑止対策として、ぜひ活用をご検討ください。
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