夜勤・残業後の“休息時間”が法律で必須に?
勤務間インターバルのポイント
公開日:2025 / 12 / 24
「勤務間インターバル制度」は、終業から次の始業まで一定の休息時間(インターバル)を確保する仕組みです。繁忙期に労働時間が偏在しやすく、残業時間の長い業界では離職防止や健康管理、労務リスク低減の観点から導入メリットが大きい領域。(詳しくは「業界別残業時間ランキングと法改正後のリスク」をご覧ください。)日本では2019年の法改正で努力義務として導入されましたが、近年の審議会で義務化を含む見直しが俎上にあり、原則11時間の方向性が注目されています(時期・内容は今後の審議で確定)。本稿は、過去の経緯、改正論点、背景・欧州比較、違反時リスク、準備ポイント、落とし穴までを俯瞰、解説します。
1. 過去の状況
日本では2019年4月、労働時間等設定改善法(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法)の改正により、勤務間インターバル制度の導入が事業主の努力義務になりました。目的は生活時間・睡眠時間の確保と健康配慮で、就業規則などに「終業から始業まで一定の休息時間を設ける」旨を定めることが推奨されています。
ただし普及率は伸び悩み、厚労省やJILPT(労働政策研究・研修機構)の公表資料では、導入企業割合が一桁台にとどまり、制度認知の不足やシフト設計の難しさが課題として挙げられています。一方、つながらない権利(就業時間外の業務連絡抑制)をあわせて運用すると休息確保の実効性が高まるとされ、近年の審議会資料や海外調査でも関連テーマとして扱われています。
2. 改正後どうなる?(2025–2027の論点)
直近の審議では、努力義務から義務化への段階的移行や、原則11時間の設定、例外・代替措置の枠組み整備が論点化。実務上は、就業規則への明記、インターバル不足時の始業繰下げ(みなし勤務)、災害・システム障害などの限定的例外、記録の保存などが想定されています(施行時期・条文は未確定。最新の省令・指針を要確認)。
また、つながらない権利のガイドライン整備とセットで、PCログやアプリ通知に基づく見える化・アラートの重要性が指摘されています。義務化・監督指導の強化に伴い、勤怠システム設定と現場運用の整合性確保が不可欠です。
3. 法改正の背景と欧州事例(詳説)
3-1. 日本で義務化が議論される背景
(1)普及率の伸び悩みと健康被害データ
厚労省・JILPTの資料では、努力義務化から数年を経ても導入率は5–6%台で停滞。導入しない理由に「制度を知らなかった」「シフトが組めない」「既存の残業是正で足りている」という認識が並びます。一方で、睡眠不足と事故・ミス、メンタル不調の関連を示す国内外の研究を踏まえ、休息時間を日々の単位で確保する制度の必要性が強調されています。
さらに、過労死等防止対策大綱の数値目標(制度認知の向上・導入率の引き上げ)もあり、努力義務だけでは実効性が弱いとの評価が広がりました。こうした状況を受け、労働基準関係法制研究会の報告書(2025年1月公表)では、勤務間インターバルの義務化を提言、原則11時間の方向性・段階施行・例外措置の検討枠組みが示されています(法案・施行日は未確定。25年12月現在)。
(2)監督行政と2024年問題への対応
建設・物流などの長時間労働是正が進む中で「連続勤務」や「短い休息」の監督指導が強化される見込みが、社労士実務解説などでも解説されています。特に夜勤・交代制・外勤を抱える事業所は、シフト再編・就業規則改定・打刻の厳格化が避けられません。
3-2. 欧州(EU)における制度の骨格
(1)EU労働時間指令:日々11時間の休息を義務付け
EUは労働時間指令で「24時間ごとに連続11時間以上の休息」を全ての労働者に義務付けています。これに基づき、加盟国は国内法で最低基準を担保します。日本で議論される「原則11時間」は、この国際基準との整合を意識したものです。
(2)代表国の具体規定(フランス/ドイツ/英国)
フランス:労働法典L3131-1条で「2労働日の間に11時間以上の休息」を権利として明記。サービス継続性が必要な職域では、労働協約で9時間までの短縮などの例外を認めるが、取得できなかった休息の補償(繰越)が求められる。
ドイツ:労働時間法で「一日の労働終了後、11時間の休息」。病院・介護などでは労使協定や調整期間の活用で一時的短縮を認めるが、他日での補償や健康保護を厳格に要件化。違反には制裁があり、運用は厳格。
英国:EU離脱後も労働時間規則で11時間の連続休息を維持。確保できない場合には同等の補償的休憩を提供する義務がある(管理監督者などの適用除外あり)。
→ 欧州では日々の休息義務+取得できない場合の補償が制度の中核で、適用除外や特例は限定的かつ記録・代償が原則。日本の今後の制度設計でも、例外の限定と補償措置の明確化が争点になります。
(3)「つながらない権利」との関係
フランスでは「つながらない権利」が法制化され、就業時間外の業務連絡を抑制する枠組みが労使協定で具体化されています。JILPTの海外調査でも、権利行使の方法は労使交渉に委ねる傾向が示され、日本のガイドライン整備に示唆を与えています。
4. 違反した場合のリスク
- 監督指導・是正勧告
労基署の長時間労働是正とセットで、休息不足の指摘が強まる可能性。是正内容が公表されるとレピュテーションリスク(企業の評判や信頼が損なわれるリスク)に直結。 - 労災・損害賠償
睡眠不足・連続勤務が事故・健康被害に結び付きやすく、安全配慮義務違反のリスク増。 - 採用・離職
働き方改革への期待水準が上がる中、休息確保できない職場は採用難・離職増へ。JILPT分析でもメンタル休職増と業績悪化の関連が報告されています。
5. 準備すべきポイント
技術(DX)
PC/クラウドログの自動取得で終業—始業間の実データを可視化。インターバル不足アラート、強制ログオフなどの設定を実装。
制度(ルール)
就業規則に原則11時間(例外は9時間など)、始業繰下げのみなし勤務、例外事由と承認フロー、理由記録・補償措置を明記(条文例の公開事例あり)。
運用(現場)
締切前のローテーション、夜勤明けの当日業務免除、早朝業務の分離などシフト設計を再構築。夜間連絡抑制の社内ガイドラインを策定し、モバイル通知も含め運用徹底。
6. 注意点・落とし穴
- “形だけ”の規程化では不十分。実ログが伴わないと抜け道が発生し、制度が形骸化。
- 例外の常態化はリスク。限定事由と補償の徹底、理由記録の運用が鍵。
- モバイル/在宅の見落としに注意。テレワークの通知・応答も休息時間に影響するため、つながらない権利の運用設計が不可欠。
7. まとめ:Chronowis※で“運用できる”インターバルへ
勤務間インターバル制度は、残業抑制、連続勤務是正など繁忙期対策に直結するテーマ。義務化が本格化する前から運用を始めることで、労務リスクの早期低減と健康経営を両立できます。
Chronowis※なら、
- PC/クラウドログ連動で終業—始業間の休息時間を自動判定
- インターバル不足アラート、始業繰下げのみなし勤務、理由記録のワークフロー化
- 繁忙期テンプレートでシフト再設計を支援し、例外運用の限定化を徹底
こうした“制度 × ログ × 運用”の三位一体で、実効性ある休息確保を前倒し実装できます。
(※ 勤務間インターバル制度対応機能 開発中 26年2月リリース予定)