第2回:シリーズ『AI画像認識』(1/3)

製造企業が陥りやすい5つのミスジャッジ【後編】

AI画像認識を製造現場に適用するうえでの留意点や手法を解説していく本シリーズ。今回は前回に引き続き、AI画像認識の導入を巡り、製造企業が陥りやすいミスジャッジについて取り上げます。前回は5つのミスジャッジのうち2つについて詳しく解説しましたが、今回は残る3つの「ミスジャッジ」について詳しく解説します。

「AI画像認識」導入・活用を成功へ導くために

AIへの期待が大きく膨らむなか、AI画像認識に関して過度の期待や誤った認識が多く見受けられるようになってきました。
本稿の目的は、そうした過度の期待や誤認識の軌道修正をしながら、AI画像認識の導入・活用を成功へと導くための要点を示すことにあります。その目的のもと、AI画像認識の導入・活用を巡り、製造企業が陥りやすい以下の5つのミスジャッジを取り上げ、その判断がなぜ間違っているのか、正しい判断とはどういうものなのかを解説しています。

前回はこのうちの「ミスジャッジ(1)」「ミスジャッジ(2)」について取り上げました。以下では、残る3つのミスジャッジについて一挙に解説します。

ミスジャッジ(3)画像データ収集の当てなくAI画像認識の導入を決める

今日におけるAI画像認識の基盤技術はディープラーニング(深層学習)です。ディープラーニングでは、大量のデータの中から、同一と指定されたデータに共通する「特徴」を自動で抽出します。例えば、あやめ(花)は、葉の先が尖っているという特徴が抽出されるでしょう。そして、抽出した特徴をもとに認識するための「頭脳」を生成し、今起きている事象が、教師データと同じ特徴を持つか否かを判断していきます。

時折、こうしたディープラーニングを活用したAI画像認識に関して、『教師画像は何枚いるの?』『認識率は何パーセント?』といった疑問を耳にします。ただし、このいずれに対しても画一的な答えは存在しません。AI画像認識の認識率は、認識したい対象物や条件などによって大きく変化し、その認識精度を上げるために必要とされる画像枚数もケースバイケースで大きく変動するからです。

例えば、写真の中のあやめの一群の中から、特定種類のあやめを見つけ出そうとした場合、あやめの種類ごとに数十~百枚の画像が必要です。一方で、多くの種類の花から、一般的なあやめを認識させるのであれば、数百枚から2~3,000枚程度のあやめの画像が必要になると思われます。これは、あやめの種類にまで認識対象を絞り込むと、個体ごとのバラツキがかなり抑えられるのに対して、あやめ(色々な種類の総称)を1つの単位として扱うとなると、紫の花や白い花も、同じ種類のグループ(概念)として学習する必要が生じ、より多くの画像が必要になるからです。

ここで仮に、製造ラインにおける「良品」「不良品」を、ディープラーニングを活用した画像認識のAIに判別させようとするとしましょう。

この場合、まずは自社の検品に携わる現場の熟練者が、どういった基準・視点で良品/不良品の判断を下しているかを把握したうえで、その判別をAIに行わせるために『どのような画像が必要か』『あらかじめその撮影(準備)ができるか』を調査しておく必要があります。

例えば、製造ラインでの不良品(キズ)の検知が目的であるならば、そのキズの画像を多く準備する必要があります。※1 この際、何枚の画像が必要になるかは、キズの形状や深さなど、見た目が同じようなキズであれば少ない枚数で済みますが、ひっかきキズもあれば、刺しキズもあるとなれば、さらに多くの画像が必要となります。

不良品(キズ)検知のディープラーニング イメージ図

また、運用前の学習によって賢いAIを完成させたとしても、製造ライン上で、学習に使った画像と同等の画像を撮影してAIに渡せなければ、せっかく育てたAIが無用の長物と化してしまいます。

『側面のキズ画像をどのように撮影するのか』『底面のキズはどうするのか?』など、画像の撮影方法についても入念に検討し、運用時に何台のカメラが必要か、どのような角度で撮影するのかなど、学習時・認識時の両方について、しっかりとした事前設計を行うことが初期導入成功の鍵となります。

AIによる認識率は、AIの技術的な良し悪し以上に、与える画像の品質によって大きく影響を受けてしまうのです。

※1 正常品のみの画像を大量に与えて、そこから外れるものを不良品と判定する技術も存在するが、画像全体の特徴量に対して差分が小さいケースでは、その判定は困難な場合が多い。初期導入段階で、誤検知や非検知が多く発生すると、現場の作業効率を落とすリスクもあるため、適用は慎重に行う必要がある。

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