第3回:シリーズ『AI画像認識』(2/2)

真実その1:
課題によっては、ディープラーニングを使わないほうがよい領域がある
AI画像認識で何ができるかをユースケースごとに分類すると、大きく「モノが何であるか」「状態を知る」「位置を知る」の3つに分けることができますが、身の周りに、このようなユースケースはいくつもあるのではないでしょうか(図1)。

図1:AIによる物事の分類
現場では人の目視による作業が多く行われています。例として、製造業のケースでシミュレーションしてみましょう。
まず、原材料を入荷する際には、正しく荷物が到着したか、箱に詰められた原料に異常はないかのチェックがあるでしょう。生産工程では、作業モレで部品が欠損していないか、作業手順にミスはないか、装置のメーターは正しい位置を指しているかなどの確認が行われているはずです。そして最後の出荷工程では、製品の色や形に問題がないか、包装紙に破れや印刷不良はないかなど、数えきれないほどの目視作業が行われています。
保守・メンテナンスの業界でも、設備が正常な状態で維持されているかの外観点検がありますし、物流業界でも、荷物の行先確認や危険物を選別して扱うために荷物に貼られたラベルを目視確認することもあるでしょう。
これらの目視作業について、すべてディープラーニングで対策するのが、果たして正解なのでしょうか(図2)。

図2:AI画像認識の現場でのユースケース
工場の製造ラインの一部では、ディープラーニングではなく、従来からある画像認識技術によって製造の自動化を実現しているケースがあります。実を言えば、このようなケースでは、ディープラーニングによる画像認識ではなく、従来型の画像認識を使ったほうが精度の高い認識ができる場合があります。
ここで言う『従来型の画像認識』とは、人が対象物の特徴点をあらかじめ選定し、『その特徴点がどのような状態だったら、このように判定する』といったアルゴリズムを記述する方法を指しています。判定の仕方を『アルゴリズムで書くことができる』ということは、対象物の特徴点がある程度限定されており、その変化の範囲も想定できることを意味しています。
例えば、製造ラインに製品が流れている例で考えてみましょう。
ラインが正常に稼働している前提において、ライン上には、ほぼ同じ形状や状態の製品が連続して流れているはずです。
ここで、作業員によるビス止め作業のし忘れを画像認識によってチェックしようとしたとします。この場合、ビス止め工程後に撮影した製品画像の状態は、『ビスがない場合(作業のし忘れ)』 と『ビスがある場合』の2つの状態に分かれるだけで、それを単純に判別するだけなら、ビスのあり/なしに至る途中の状態は考える必要はありません。このように、特徴点や状態が明確なケースでは、判定の方法をアルゴリズムで書くほうが効率的と言えます。
これに対して、製品製造中についてしまったキズのチェックはどうでしょうか。
キズの形状や特徴が限定される場合は、アルゴリズムを書くほうが効率的な場合もあるでしょうが、多くのパターン(方向、深さ、形状など)が生まれる可能性のあるキズに対して、一つずつ特徴をアルゴリズムで書くことは、論理的には可能であっても、実質的には現実的ではありません。このように画像認識のアルゴリズムを記述し、それを維持するのが難しいケースは、次の3つに集約できます。
(1)対象物の認識において、特徴点が数多く存在し、どこで判定すればよいかで迷うような場合
(2)判定条件が固定ではなく変化する場合
(3)認識する対象が後から追加されるような場合
これら3つのケースでは、従来型の画像認識を使うよりも、ディープラーニングの採用を検討したほうがよいと言えるでしょう(表1)。また、従来型の画像認識を使うか、ディープラーニングを使うかを判断するうえでは、「画像認識したい特徴を、言葉で言い表すことができるかどうか」を基準にして考えてみるとよいでしょう。
ディープラーニング | 従来型の画像認識 | ||
---|---|---|---|
認識の特徴 | 特徴点の選定 | 自動 | 人が設計 |
判定方法 | 特徴点ごとの類似度合いに重み付けした値を算出 | アルゴリズムにより判定 | |
認識率向上の方法 | 不足条件の教師データを追加して再学習(自動で脳づくり) | アルゴリズムの追加、見直し | |
望ましい 適用条件 |
特徴点 | 特徴点が多い (どこで判断すればよいか迷う) |
特徴点が限定的 (判断ポイントや条件が明確) |
特徴条件 | 特徴点の判定条件が変化 | 特徴点での判定は固定 (最初に決めると変わらない) |
|
認識対象 | 認識対象の数が増える | 認識対象の増減はない (最初に決めると変わらない) |
|
現場の技術レベル | IT関連の特別なスキルなし | 現場でアルゴリズム更新可能 |
表1:従来方式とディープラーニングの違い
以上、今回はディープラーニングで「できること」「できないこと」を中心にしながら、製造現場での適用の可能性について考察しました。次回は、ディープラーニングをめぐる次の2つの真実について詳しく解説します。ご期待のほどを。
―― 監修 ――

中尾 雅俊
パナソニック ソリューションテクノロジー株式会社
AI・アナリティクス部 ソリューション推進課 主事

矢嶋 博
パナソニック ソリューションテクノロジー株式会社
産業IoT営業部 ソリューション推進課 主事
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